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第16話

【シュンの高校時代の出来事】 「瞬(しゅん)今日は練習だろ? 健二(けんじ)も亮(あきら)も、もうスタジオに着いてるって」 「ん、分かってるよ英明(ひであき)せっかく2人で居られたのになぁ。でも、仕方ないよな。俺たちの夢の為だ」  第2土曜日は貸しスタジオでバンドの練習の日、集合ちょっと前に英明の家に寄り、つかの間の恋人気分。と、言っても二人はまだキスしかしていない仲だった。  俺、澤井瞬(さわいしゅん)は、高校で友人一緒にとバンドを始めた。夢はもちろんメジャーデビュー。  その頃は4人で将来の事を話しながら練習に励んでいた。 俺が頑張れたのは、親友の英明が居たから。あいつは4人の中で1番真剣だった。俺たちだって本気だったけど、親の家業を継がなければならない立場なのに、音楽を始めてしまったあいつが、親にもらったチャンスは1度きりだったから。  そんな親友、英明の傍にいつも居るのは、俺であって欲しいと思うようになったのはバンドを始めて半年くらいたった頃だった。  英明に言われて、唄だけでなくギターを始めて1ヶ月、思うように上達しない俺を見かねて、家に教えに来てくれたある日。 「指が痛くてさ、弦押さえるの辛いんだけど?」 「それってさぁ、力が入りすぎてんだよ。こんな感じでいいんだぜ」  英明が俺の後ろに回って背中から腕をまわし、ギターの弦を押さえている俺の手に自分の手を添えて弦を押さえてみてくれた。  俺はその時、もの凄くドキドキしていた。俺の背よりも10cm以上大きな英明に抱きしめられているような感じだったから。 「わかった? 瞬」 「え、うんまぁ」 「何だよ、赤い顔してない?」  英明が俺の頬を触っていた。 「べ、別に」 「そうかな?」  英明が俺の前に戻ってきて、肩に手を置くと顔を斜めにして俺の顔を覗き込んだ。 「瞬? 俺さ」 「な、なんだよ」 「お前の事好きみたい」  英明はそう言って、俺に触れるだけのキスをした。優しい瞳が俺を見つめていた。俺の答えはもちろんあいつと同じ。 「俺も、英明が好きだ」  それから、他のメンバーには秘密で俺と英明は付き合い始めた。とは言え、頻繁にバンドの練習をしていたので、デートとかする訳でもなく。誰も居ない道でこっそり手を繋いで歩いたり、2人っきりの時に軽いキスをする位だった。  それでも、俺は英明と居られるだけで嬉しかったし、幸せだったので、バンドの練習にも力が入った。練習中は喧嘩もするけれど、それは俺たち皆が真剣だっていう証拠だった。 「俺、時々思うんだよ。バンドで成功しなかったら、親父の仕事継がなきゃならないだろ? また一から勉強し直しなんだよな」 「大丈夫だよ英明、絶対プロになろうな。一緒に頑張ろう」  もし、夢が叶わなくても、俺は英明の傍にいようと思っていた。あいつの傍でずっと。そんなのムリな事だって、その頃は考えもしなかったから。

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