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第20話

 それからしばらく経ったある日、カラオケ屋のバイトに入っていると、シュンが来た。メールでは度々会話しているけれど、本人に会うのは久しぶりだった。 「これ、前に言ってたやつ」  そう言ってシュンが封筒を手渡してきた。 「えっと……何でしたっけ?」 「まったく、鷹人君は忘れっぽいよな」  そう言ってシュンが笑った。前って、いつの事だろう? 考え込んでいると、シュンが俺の視線をしっかりと捉えてから言った。 「チケットだよ、ライブの。絶対来いよ」  あの日そんな会話をしたような気がしてきた。でも、まさか本当にチケットをもらえるとは思ってもなかった。 「もちろん行きます。あ、いくらですか?」 「いらないよ。絵の代金払ってないし」 「ありがとうございます」  俺はヤバイくらいにやけていたと思う。シュンは俺のそんな表情を見て満足したように微笑んだ。そんなやり取りだけで、胸が痛いくらいドキドキしていた。  だけど、微笑みあった数秒後、シュンがニヤッと笑ってから言った。 「明日新曲が出るんだ。よろしく」 「え? くれないんですか?」  俺がそう答えるとシュンは「それは自分で買えよ」と言って俺にデコピンした。 「了解です」 「メールの返信かよ」  そう言ってシュンが笑っていた。  それからすぐ、シュンの友達がバラバラとやって来て、皆で部屋に行ってしまった。  その日の一緒にシフトに入っている竹下は電話応対中だったので、シュンと俺のやり取りを見ていなかったようだったのだけど――。 「渡辺さん、あの人と仲良いんですね? あの人芸能人でしょ?」  シュンの姿が見えなくなった頃、竹下がソワソワしたように聞いてきた。 「前にあの人に絵を頼まれて描いた事があってね、それから色々話すようになったんだ」  話すようになったというよりも、メールするようになったんだけど……。 「へー、羨ましいな」  竹下が羨望の眼差しで俺を見た。 「お前って、音楽とか芸能人とか興味なかったんじゃないの?」  たしかアニメが好きで、そういう関係の仕事に就くんだと言っていたはず。 「興味は無いんだけど、あの人、前に映画に出た事あるじゃないですか」 「そうなんだ? 俺知らなかったよ」 「え、知らなかったんですか? 俺、あの映画結構気に入ってたんですよ。たまたま彼女があの人のファンだったから、付き合いで行ったんですけどね。すごい綺麗でしたよー。出来たら付き合いたいなーなんて映画見ながら思ってたんです。あ、彼女には内緒ですけどね」  バイト先にも時々やってくる竹下の彼女。可愛くて良い子なのに、何てこと思ってんだよ。 「そうなのか? でも、男だよあの人」  俺は複雑な気持ちになりながらそう言った。 「男って分かってても、あの人とならH出来そうだなーってね」  竹下が声を落としてニヤニヤしながらそう言った。  『ふざけるな!』っていう思いと、俺もこいつと同じなのかもしれない、と言う気持ちでモヤモヤしてしまった。 「そんな事考えるなんて、シュンさんに失礼だと思わねーの?!」  その時の自分の発した声のトーンに自分でも驚いてしまった。 「そんな、冗談ですよ。恐いなー渡辺さん」  俺は自分に対してなのか、そいつに対してなのか分からないイライラした気持ちを抱えたままその日を過ごしてしまった。  会計を済ませて帰っていくシュンが、俺の方を見て手を振ってくれたのに、俺は笑顔も出来ず、ただ頭を下げてただけだった。  隣では竹下が元気良く「有り難うございました! また来てくださいね」と言っていた。

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