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第21話
その日のバイト終わりに、スマホをチェックしていると、シュンからのメールがあった。
着信時刻は、シュンが店から帰って間もない頃だった。今日は昼頃にメールが来てたから、もう来ないと思っていたのに――。
『今日何かあったのか? 帰り調子悪そうだったけど?』
それを読んで、俺はしまったと思った。シュンは何も悪くないのに、俺のイライラした気持ちをシュンにぶつけていたんだ。
『済みません、何でもないです。心配させて御免なさい』
それだけ書いて急いで返信すると、少ししてメールが返ってきた。俺の返事待ってたのだろうか。
『メール来ないのかと思った。良かった。何も無くて』
シュンが自分の事を気にかけてくれた事がすごく嬉しかった。だけど、自分に対する嫌悪感に似た訳の分からない重い気持ちが、心の奥に残ってしまった。
翌日、学校帰りにシュンが言っていた、サーベルの新しいCDを買いに行く事にした。
CDショップの中で、サーベルの新譜を持って嬉しそうにレジに向っている制服の女子高校生達とすれ違った。
「ライブももうすぐだしねー? チョー楽しみ」
「だよね。シュンに会えるの久しぶり!」
「そう言えばこの『出会い』って曲の歌詞、ちょっと気になるんだよねー」
「そうだね。書いたのシュンでしょ?」
「うん、だと思うよ。ミサさんとの出会った頃のことかな?」
「かなー。でも違わない?」
女子高生の話が聞こえたのは、そこまでだった。
奥さんの名前、ミサさんって言うんだ。昨日の夜の感じた奇妙な気持ちが、再び胸の中に広がって苦しかった。
――俺はシュンの何が好きになったんだよ? 友達でいたいって言ったのに、それ以上の事を望んでしまっていない?
俺はしばらく新譜を手にしたまま、買うか戻すか迷っていた。だけど、絶対シュンが曲の感想を聞いてくるに違いないと思い、レジに行ってお金を払った。
どうして迷ってしまったのか、自分でも良く分からなかった。
家に帰り、課題の絵を描きながらCDを聴いていた。初めは聞き流していたのだけど、2回目に聴いた時、気になった歌詞があった。
君からの言葉をいつも待っていた 僕が欲しいって
君のその唇で伝えてくれるのを 出会った時から待っていた
僕は天使ではないけれど 君が望むなら天使になろう
そしていつまでも君の側にいるよ 君を待っていたから
普通に聞けば、よくある感じの愛の歌。ほんの少し切なく感じるのは、自分に伝えているように、聞こえるから?
ねぇ、シュン。俺が望んだら、天使になって俺の側にいてくれる?
バカだな俺、そんなのあるわけない。男の俺が、ファンの女の子みたいなこと考えるなんて自分がコワくなってきたよ。
それから俺は、無心で絵を描いていた。自分の将来がかかっているんだから、他の事に気を取られてる場合じゃない。
その日の夜、シュンからのメールが届いた。
『新曲どうだった?』
やっぱり来たか……。
『すごく綺麗な曲ですね。少し切ない歌詞だけど、良い曲だって思いました』
『良かった。君がそう言ってくれるのがすごく嬉しい』
『ファンの皆が、私の天使になって!って大騒ぎですよ』
俺はそんなメールを返した。そう、これはただの詩。聴く人たちに色々な想いを描かせるものなのだ。
馬鹿みたいに1人で悩むのは止めよう。そう思い、俺は黙々と絵を描く事に集中した。
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