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第22話

 チケットを貰ってから1ヶ月が経った。その間はシュンに会う事は無かったけれど、相変わらずメールのやり取りが続いていた。メールの度に「ライブまであと○日!」って書いてあった。ライブが楽しみでしょうがないんだなって思った。  俺は俺で、目の前でシュンが歌う姿を見るのがとても楽しみだった。カラオケで演歌を歌ってるシュンではなく、ステージで自分の歌を熱唱するシュンを見られるのが――。  学校とバイトの日々が過ぎ、あっという間にライブ当日になった。  ワクワクした気持ちでライブ会場に到着した俺は、会場内から続いている長蛇の列にビックリしてしまった。  雑誌に出るよとかテレビに出るとか、シュンからメールで教えてもらってはいたけれど、全部をチェックしてる訳でもなくて、バンドの活動状況や、ファン層もあまり知らないでいた。  高校生くらいの女の子のファンが多かったけれど、男のファンも思ったよりたくさん結構いた。  入場者の列に並んでゆっくり歩いている俺のまわりには、シュンの衣装と同じような服装をしたファンがいた。コンサートグッズを抱えて、嬉しそうにシュンのデビュー当時の話をしていた。  「あまり早くから来ると長時間並ぶだけだよ」とシュンが教えてくれたので、開場時間を過ぎてから着くように来たのだけど、それでも、思った以上に沢山の人が会場の外に溢れていた。  やっとの事で会場内に入り、席を探す。もらったチケットの座席はアリーナ最前列の中央右より。ちょうど隣が通路になっていたのでホッとした。  開演時間を少し過ぎた頃、会場内が暗くなった。ザワザワし始めたと思ったらファンの女の子達がメンバーの名前を叫びだした。まだ薄暗いステージの上には3人のメンバーが次々と登場して、それぞれ各自のポジションに着いた。そして、シュンがステージ中央に現れると、悲鳴のような声が会場中に響いた。次の瞬間、ステージが眩い光に照らされた。  会場全体に響き渡る声援を聞きながら、改めてシュンは別世界の人なんだと思っていた。  スポットライトを浴びたシュンは、カラオケ屋に来る時のようにラフなスタイルではなく、バッチリ着飾ってる。カッコいい、綺麗、可愛い、どれもシュンに合う誉め言葉だけど、今日のシュンは特にカッコ良く見えた。  女の子達がキャーキャー言う気持ちがよく分かる。俺もみんなのように叫べたらいいのにと思った。  それにしても……初めてのライブをステージのこんな間近で見られるなんて感激だ。ステージに立つシュンがしっかり見える。  曲の途中で、シュンが俺の席を確認したかのように、こちらを向いて微笑みながら指をさすようなポーズをした。周りの女の子達が「キャーキャー」言いながら、嬉しそうに手を振っていた。俺は手を振るなんてこと出来る訳も無く、シュンにわかる程度に頭を下げた。  シュンの歌声は甘く、時には力強く、ルックスだけではなく、本当に実力がある人なんだと実感した。  ステージの上を走り回ったり、踊ったり、曲間にメンバーととぼけたトークをしたりして、シュンの意外な面を見られた感じでとても新鮮だった。  ライブからの帰り、電車の中で俺はシュンにチケットのお礼とライブの感想をメールした。 一刻も早く、感動した気持ちを伝えたかったのだ。  メールを送信して、音楽を聴こうと操作していると、着信があった。 『ライブ来てくれてサンキュ。またチケットやるから絶対来いよ』  ステージで歌っていたシュンを思い出すと、胸のドキドキが激しくなった。

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