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第24話
「いらっしゃいませ」
「お? あぁ、どうも」
「シュン、早かったじゃないか」
シュンが一瞬困ったような顔をした。
「それでは、ごゆっくり」
俺は急いでその場から離れた。受付に戻ると、進藤に「遅い!」と怒られてしまった。だけど、動揺していたので、俺は上手く言い訳出来なかった。
「まったく。お前はシュンに弱いからなぁ。あ、それよか、今、シュンの友達が話してたんだけど、シュンの奥さん妊娠中らしいぜ」
「え?」
「だからー、シュンが父親になるんだって」
言いようがないくらいショックだった。今さっき、シュンの方からキスを求めてきたから、もしかしたら俺にもチャンスがあるんじゃないかと思ってしまったのだ。
「おい、大丈夫か、鷹人? 聞こえてる?」
黙り込んでしまった俺を心配して、進藤が俺の肩をゆすっていた。
「あ、いやー。シュンさんが父親って似合わないよなー。あの人全然生活感無いから」
「性別不明な感じのとこもあるしな。それに28才には見えなかったし、父親になるなんて、なんかビックリだよな」
進藤がそう言って頷いていた。俺はシュンの年齢も知らないでいたんだ――。
「シュンって28才なんだ?」
呆れたという顔で、進藤が俺を見た。
「お前、知らなかったのか?」
「あ、あぁ」
年上だとは漠然と思ってたけど、10才近く年上だったんだ。そんな、シュンが俺に惚れてるなんて、有り得ない。奥さんが妊娠中で欲求不満になっているだけなんだろう。
自虐的になっていたその時、廊下の方から声が聞こえてきた。
「おい! シュン、どこ行くんだよ?」
どうやらシュンの友達の声のようだ。シュンは一体どうしたんだろう?
「ごめん。俺今日帰る」
シュンの声がそう答えた。
「何だよ、誘ったのはお前だろ?」
戸惑った様な声が続いた。
「ごめん、急用。カラオケ代は3時間で払っておくよ」
そう聞こえてから間もなく、シュンが俺の前に立った。そして代金を進藤に渡しながら、
「進藤君、悪いけど、鷹人君借りていっていい?」と早口で言った。
俺は訳が分からず「いや、バイト中なので……」というのがやっとだった。
「いいですよ。もう次のシフトの奴来てるんで」
「ありがとう。ちょっと、鷹人君に頼みたい事があるんだ。ごめんね」
シュンと進藤が勝手に会話を進めてから、シュンは俺に有無を言わさず、帰る用意をするように言った。
「鷹人君、さ、行こう」
シュンの後を追ってきた友人と進藤を残し、俺たちは店を出て歩きだした。
しばらく2人とも無言で歩いていた。シュンは俺の腕を掴んだままで離してくれなかった。
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