25 / 31

第25話

「シュンさん、どこへ?」  俺は緊張感の漂う中、やっとのことで聞いてみた。 「鷹人の家」 「え、何でですか?」 「君と抱き合いたい」  シュンがそっと顔を近づけ、耳元でそう囁いた。俺は背中がゾクゾクした。 「な、どうしてそうなるんですか?」  シュンは俺の言葉を無視して、どんどん歩いて行って、ついには俺の部屋の前まで来てしまった。 「ハイ、鍵出して」  シュンが俺の目を見ながらそう言った。俺が何も言わずい困っていると、シュンは俺のポケットから鍵を抜き取り、ドアを開けてさっさと部屋に入ってしまった。 「入りなよ、鷹人君」  あの、シュン、ここは俺の家なんだけど?  靴を脱いで部屋に入ると、シュンは立ったままの俺に抱きつき、キスを仕掛けてきた。シュンの唇の隙間から這い出してきた舌が、俺の唇を割って入ってこようとする。 「シュンさん、やめて下さい。俺、本当に困る」  理性を総動員させながら俺はシュンを拒んだ。 「俺が男だから? 年上だから? 芸能人だから?」  今にも泣き出しそうな顔で、シュンがそう言った。 「それだけだったら、俺はそんなの気にしないです」  俺がそう言うと、シュンは黙り込んでしまった。 「シュンさん?」  俺は必死に自分の感情を抑えていた。本当はキスを続けたかった。シュンが望むなら、その先だって――。 「奥さん、妊娠中なんでしょ?」  俺はシュンの頭を撫でながらそう言った。 「どうして知ってる?」  シュンが俺を見上げて、苦しそうな顔をした。 「シュンさんの友達が話してたって。進藤から聞いたんです」  シュンが「あぁ、そうか……」と呟いた。 「奥さんとセックス出来なくて溜まってるだけでしょ? シュンさん」  少しでも空気が軽くなるようにと思いながらそう続けた。 「違う」 「俺、英明さんじゃないよ?」  諭すように言ってみた。 「分かってるって言っただろ!」  シュンの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。そんな顔しないで。俺がどんなに我慢してるか分かる? 「俺は英明じゃなくて、鷹人、君を愛しているんだ……」

ともだちにシェアしよう!