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第27話
ごめんねシュン、俺はその時決めていたんだ。来年の春学校を卒業したら父親の所に行こうって。これ以上そばに居たら、シュンを苦しめてしまうかもしれない。
それに……この俺が耐えられないと思うから。逃げていくことになるけれど、それがきっとお互いの為なんだと思うから。
シュンの頬にキスをしてから2人で抱き合って眠った。
あの日、出会っていなければ、こんなに身を切られるような思いをしないですんだのに。でも、出会ってしまったのも2人の運命だったんだろう――。
ほんの短い間だったけど、あなたの傍にいられて幸せだった。 シュン、愛してくれてありがとう。
その後も、変わらずメールのやり取りを続けた。週に数回、内容も前と同じようにその日に有った事とか、ちょっとした失敗談とかだった。
だけど、いつの間にかそれが毎日になり、俺に甘えているような感じのメールになってしまい、正直苦しくてしょうがなかった。恋人のような気持ちでメールを出せたらどんなに良いだろう――。
そして、新しい年になり、俺は卒業に向けて忙しい日々を送るようになっていた。カラオケ屋のバイトも減らしたのだが、その日を選んでシュンが歌いに来てくれた。
笑顔で話し掛ける彼に、悟られないように会話した。俺がもうすぐシュンの前から居なくなる事を――。
デザイン関係の会社に就職の決まっていた進藤には、結局シュンとの関係を話してしまった。シュンの立場もあったから、黙っていようと思ったのだけど、1人で抱えているのが辛過ぎた。決心を鈍らせない為にも、シュンを忘れる為にも誰かに聞いてもらいたかった。
進藤は、最初とても驚いて、俺がヤバい妄想を語っているのだと思ったみたいだ。でも、その話をしてからの俺とシュンの会話を見ていて、どうやら信じてくれたらしい。
シュンは、進藤がいても、まるで2人きりでいるような話し方をするようになっていた。
シュンの友達が居る時は気を付けていたようだけど、進藤と俺だけだと、『鷹人』って甘い声で俺の事を呼んでいた。俺の手にさり気無く手を添えることさえあった。
次第に進藤も、シュンの為には離れる事が良いんだろうって言ってくれた。お互いの将来の為にも。でも、シュンにきちんと話をしないのかと聞かれた。俺の勝手な思いから始まった事なのだろうからって。
だけど、俺の思い上がりかもしれないのだけど、シュンに伝えてしまったら、あの人は俺を追ってきてしまいそうだったんだ――。
何も言わないで居なくなれば、酷い奴だったんだって思ってくれて、俺の事諦めてくれるんじゃないかと思った。
前にも悲しい思いをしているシュンには本当に酷い仕打ちだと思う。最後まで俺は、自分勝手だ。でも、他に考えられなかった。俺の前でシュンが悲しい顔をするのを見たくなかったから。それでも、シュンを愛してるって言えるんだろうか? 身勝手で幼稚な愛なのかもしれない。
シュンには、俺は知人のデザイン事務所で雑用の仕事をしながら絵の勉強を続けると言ってあった。それでも就職なんだろうからって、スーツを作ってくれた。サイズなんて知らない筈なのに、俺の身体にピッタリフィットするオーダーメイドスーツだった。
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