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第2話

 男装女性アルファの地下アイドルグループ「フィオーレ」は、収容人数三百人ほどのライブハウス兼ダンススタジオ「ピアンタ」を活動拠点に据え、ライブイベントを中心に活動を行う、地下アイドル──またの名をライブアイドルと言った。  彼女たちは女性アルファばかりの四人グループで、アイドルと名のつくものの出尽くしたかに見えた首都圏に、新たな風を巻き起こしつつあった。  そして、その「ピアンタ」のステージ裏では、「フィオーレ」たちが静かに錯乱していた。 「駄目だ! どこにもいない……!」 「トイレは探した? それか、レッスン場にまだいるかも……っ。フィンは最終確認がしたい、ってハナに言ってたんだよね?」  ミキとオトハの言葉に挟まれ、青ざめたハナが頷くと、ひととおり楽屋のある階を見て回ってきたネネが、非常階段を駆け降りてきた。 「駄目にゃ! いなかったにゃ……!」  ハナが、オトハとミキと一緒にいるところへ、縋るようにネネが飛び込んでくる。 「一体どこに行ったにゃあっ……! フィンの奴……!」  四人で顔を突き合わせていても、答えは出てこない。ハナは真っ青になりながら、先ほど言った言葉を無為に繰り返すしかなかった。 「てっきりレッスン場にいると思って……、呼びに行ったら、脱いだ衣装と靴と一緒に、こんなメモが……」 「『ごめん、ハナ。みんなにも、ごめんなさいと伝えてください。』って、何これ……!」  心臓が焼き切れそうだった。こんな大事な時に、「フィオーレ」のメンバーがいなくなるなんて。  男装女性アルファの地下アイドルグループとして知られる四人組、「フィオーレ」のファーストアルバムリリースイベントが差し迫っていた。客席からコールが聞こえてくる。本当なら、もう万全の準備をして、メンバー四人がステージ裏に揃っていなければならない時間帯だった。 「最終チェック、お願いします」  裏方のスタッフに、いつもどおり遠くから声を掛けられる。  ステージ裏にいるはずの四人──フィン、ネネ、オトハ、ミキのうち、フィンが欠けていた。「フィオーレ」初のアルバムリリイベ本番開始まで、秒読みなのに、彼女の姿がどこにもないのだ。 「──どうする……?」  まだ幸い、メンバーのフィンが欠けていることには気付かれていない。しかし、脱いだ衣装の肝心の中身、フィンが消えてしまったことがバレたら、──終わりだ。 「どうするって……、フィンはいない。どうしようもないよ」  左右のサイドでオトハと踊るはずのミキが、動揺した声を出した。 「ぼくがついていながら……っ」 「ハナのせいじゃないでしょ。フィンが決めたことだ」  このままフィンが欠けた状態で、乗り切れるのか。フィンはネネと一緒にフロントで踊るメンバーのひとりだ。それに、セットリストに入っている曲は全部、デビュー当時から「フィオーレ」の四人で踊り倒してきた曲だった。今さら振り付けを変えるなんて、できないし、時間もない。  しばしの沈黙の後、リーダーのオトハが、苦渋に満ちた声を上げた。 「……ハナ、一緒にステージに立って」

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