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第12話(*)
軽いタッチで触れられているだけなのに、テラの甘い匂いが鼻腔を刺激した。むずがゆいだけだったテラの掌に、次第におかしな気分になってくる。
そのうちに、刺激が集まって、次第にひとつのうねりになってくるのをハナは感じた。その集積場所が、普段は滅多に意識に上らないのに、今はじんじんとした不快な疼きを伴っている。
(っ、どうし、よう……っ)
ハナは、発情期以外に抑制剤を服用していなかったことを後悔した。
今までは、必要がなかったし、身体に無駄な負担を掛けることを躊躇った。
しかし、今、自分に触れているのはアルファなのだ。
もし、彼の匂いに反応して、突発的に発情してしまったら……。
油断していた。きっとテラは事前に、抑制剤を飲んでいるのだろう。鞄の中に緊急用の注射器は常備してあったが、そこまで歩いて辿り着けるかどうか。ハナは視界の端にある、半開きのドアを見て、焦慮した。
その上、発情もしていないのに、ちょっと触られただけで勃ってしまうなんて、男としても恥ずかしかった。
「んっ……」
ぐり、といつの間にか敏感になった乳首を指で潰されると、思わず声が出てしまう。慌てて欲情を隠そうとした時、テラがまた、ハナの耳朶を噛んだ。
刹那、じわ、と先端が濡れてくる感覚がする。
いつもだったら、とっくに指で慰撫しているところだった。
触りたい。触って欲しい。
考えているうちに、欲望はじわじわと膨れ上がってくる。
「っ……ふ、……っ」
ハナがどうにか乱れた呼気を整えようと溜め息をつくのと同時に、テラが大きく動いた。
「きみには存外、硬いところもあるようだ」
「あ……!」
耳元で囁かれながら、着衣の上から、取られた左手を、勃起した中心に宛てがわれる。途端にビリ、と強すぎる刺激がして、腰がビクンと跳ねてしまった。
「ゃ、ぃゃ、だ……っ」
口に出したその瞬間、じわりと下着の中に熱い迸りが広がった。
「ぁ……っ」
半泣きになり、ハナは自分の射精直後の膨らみを見た。テラはその姿に何を思ったのか、「ま、最初はこんなものだろう」と、いとも簡単に絶頂に導いた左手を離し、ハナを放り出した。
「っ……は、は……っ」
息を整えるのに必死で、テラがどんな顔をしているかまで確認することができなかった。羞恥のあまり顔を上げられないでいると、テラは口調を崩さずに、ハナを促した。
「オメガというのは、不憫な生き物だな。──バスルームのドアはあちらだ。次は三日後の十時にきてくれ。……また遊んでやる」
「っ」
怜悧な声に言われてすら、身体が反応をしてしまう。発情こそしなかったが、普段、そういったことを殆ど意識しない身体への性的刺激は、ハナにとっては過激なものだった。
そして、テラの放った言葉にすら、傷ついていることをハナは悟る。
(所詮、アルファにとっては、遊びなんだ……)
身体が落ち着くのを待って、何とかバスルームへ這うようにして入る。
まるで、テラの声には、欲情を促す成分でも入っているようだった。
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