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第14話

 仮縫いした服を着る。  新たに起こした型紙から裁断され、仕付け糸を掛けられた衣装は、まるで夢のようだった。 「どうだ?」 「すごい……」 「それじゃわからん。具体的に言ってくれ」 「すごい。ぴったりです。……すごい」  ハナが興奮を隠せずに言うと、テラは呆れたように溜め息をついた。 「当たり前だ。きついところはないか?」 「ん。平気、です」  鏡の前に立つと、テラによりつくり変えられた地下アイドルが立っていた。靴も、オーダーしていたものが届いたので、テラに手伝ってもらいながら、履いてみる。 「大丈夫か? よし、少し動いてみてくれ」 「動く、ですか……?」 「そうだ。軽く踊ってみてくれ」  ハナが慣れない口調で尋ね返すと、テラは的確に命令してきた。 「曲は? 「アンビバレンツ」?」 「はい。お願いします」  テラが、壁に立てかけられていたアコースティックギターを抱える。軽くチューニングして、いきなりEのコードから入った。A、C#m、B、と続き、慌ててハナは最初のポーズから動きはじめる。かなりの音量だったが、この階にいるのはテラとハナだけのようなので、特に問題はないだろう。  踊ってみると、ぴったりくる。  遊びが適切にあって、伸縮性のある布地に守られている。まるで戦闘服だ。  曲を適当にかき鳴らし、ハナを踊らせているテラも、心が浮き立っているんじゃないかという気がした。  ハナは無邪気に踊り、歌った。  身体が軽かった。  キラキラしていて、夢のようだ。  一段落すると、テラはギターを置き、「こんなものだろう」と言った。 「──処女の演る男役ってのは、いいね」 「えっ……」  おもむろにそう言われ、ハナは固まった。  テラは傍にきて、ハナの衣装を剥ぎ取ってしまうと、皮肉げな笑みを浮かべる。 「きみは処女だろ? 清楚なオメガだ」  下着姿だけの、貧弱な身体。  言われた言葉の意味を悟った瞬間、カッと頬が火照った。  そんなこと、生まれてから一度も言われたことがない。  それに、男性オメガを処女と言うのは、どこか違うのではないか、とハナは思った。確かに男性オメガは性交渉をすると妊娠する可能性がある。……らしいが。 「ハナ」  全裸に近い格好でもじもじしているハナを、テラは振り返った。 「は、はい……?」 「こちらへきて、膝に乗りなさい」  怜悧な表情で、ベッドルームのドアを開け、誘われる。  そうだ。  忘れていたが、この男を楽しませ、証明しなければならないのだ。  誰にも触られたことのなかった身体が、ひらいてゆくさまを、晒さなければならない。  ハナにとってそれは、強制的にオメガであることに直面させられる行為だった。 「っ……はい」  ハナは神妙な顔になり、おずおずとテラの背中に従った。

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