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第17話

「ごめんなさい……!」  スタジオ・ピアンタのダンスルームで、フィンが他の「フィオーレ」たちに頭を下げたところだった。  オトハ、ネネ、ミキ、そしてフィンの、四人の「フィオーレ」がいるところへ、ハナは、プロデューサーの明から大事な話があると言われ、集合を掛けられていた。 「みんなには本当に申し訳ないことをしました。謝って許してもらえることじゃないと思う。けど……っ、二度としません! だから、あたしをもう一度、「フィオーレ」に入れてください……!」  低く、遠くまで通る透き通るようなきれいな声が言った。  フィンは全治二週間の捻挫した足を踏ん張っていた。右足首に巻かれた包帯が、痛々しい。 「許す前に、理由が知りたい」  リーダーのオトハが言った。 「そうにゃ。フィンがステージすっぽかすなんて余程のことだってみんな心配したにゃ」  ネネも縋るように、苦しげな声を出した。 「足、ちゃんと二週間で治るんだろうな?」  メンバーの中で一番背の高いミキが尋ねる。  フィンはずっと下げていた頭を上げて、泣き腫らした目を右手でちょっと擦った。 「足は問題ない。あたしには……ずっと好きだった人がいたの」  フィンのひたむきな性格を知る、オトハもミキもネネも、その告白に息を呑んだ。ハナもだった。フィンの声は滲んで、沈んでいた。面白い話ではない、と前置きをして、フィンは話しはじめた。  フィンには、幼稚園の時から一緒だった幼馴染がいた。中学の時に、ずっと憧れていたアイドルをやりたいと決意したフィンは、彼女に告白して、一度振られていた。 『アイドルは、アイドルらしく』  泣いたフィンに、彼女はそう言って、やはり涙を浮かべて笑ったという。  高校では、地下アイドルとしての活動ができる、私立を選んだフィンと、市立高校を選んだ彼女は離れ離れになった。それでも、折に触れて連絡だけは絶やさず努力してきたフィンだったが、両親の仕事の関係で日本を離れることになった彼女が、最後にメールをくれた日が、あの「フィオーレ」の初アルバムのリリースイベントの当日だった。  一度は諦めた彼女の存在の大きさに気づいたフィンは、アメリカに行き、向こうの大学を出て、海外で就職する、と決めた彼女の決断に、最後に一目だけでも逢いたい、ちゃんと別れを言わないと、前に進めないと思ってしまった。  そこで、ステージと成田空港を天秤にかけ、成田へ行く方を選んだ。 「誓って、清い関係だけれど。でも、あの時はどうしても、そうせざるを得なかった。でも、ちゃんとお別れできたから……っ、今は、もう、へいき」  そう言ったフィンは、まだ少しつらそうにハナには見えた。  距離的に離れてしまえば、彼女との細い絆なんて、きっと消滅してしまう。きっちりけじめをつけないと、フィンは人生を歩んでいけないと思っていたようだった。  そして、急ぎすぎて空港のエスカレーターで転び、足を酷く捻挫してしまった。 「ファンを裏切って、みんなを裏切って、ステージに立つ資格なんてもうないのかもしれない。もしも、そう思うなら、ここではっきり切って欲しい。でも、許してもらえるのなら……あたしの人生は今度こそ、「フィオーレ」とともにあると言える」  十七歳で背負うには、重いものかもしれないけれど、地下アイドルとして大きくなって、嫌でも彼女の目に止まるような存在になってやる。フィンは、そういう目をしていた。

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