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第27話(*)

 長く、秒針が動く速さで続いていた絶頂が、今度は潮のように引いていく。その時、ハナを抱いていたテラの腕もまた、ゆっくりと入れていた力が抜けていった。 「ん……、んっ……」  快楽を貪った名残りが、ハナの身体のあちこちを軋ませる。クシャクシャになったハナに、下着を元のように着させると、テラは、それまで放ったことのないほどの、長い溜息をついた。  このまま、何事もなく眠りたいと思うほど、急激な疲労にハナは襲われた。終わった切なさに、身体を何とか以前の状態に戻そうとすると、テラの腰を抱いていた腕が、するりと外れた。  振り返ると、額にキスを落とされた。 「……テ、ラ……?」  散々、喘いだせいで、ハナのハスキーな声は惨めなほどに枯れていた。  テラはハナの頬を両手で掴み、瞼に、鼻に、頬に、とキスを落としていく。その仕草がくすぐったくて、思わず笑いそうになると、最後に鼻と鼻をくっつけられ、溜め息とともに低い声が囁いた。 「私は──……、いったい、何を、やっているのだ……」  その問いに、思わずハナは身体を強張らせた。  何をやっているのだろうか……。  本当に、自分たちは、何を。  快楽に塗れて眠ることもできず、ハナが少し冷静になった瞼を開けると、そこにはテラの、歪んだ顔があった。 「テ……」  テラ、と声を掛けようか迷った時、深い溜め息をついたテラが、ハナから身体を離した。  そして、言う。 「シャワーを浴びて……帰りなさい。また呼ぶ」 (……っ)  その声に、ハナの心臓は、掴まれたようにぎゅっと縮んだ。  ソロリとふらついた足を動かして、バスルームへとハナは去っていった。その間、考えることは、屈辱と悲哀と後悔と、希望を持った自分自身への哀切に似た感傷だった。  ──これじゃ、まるで娼婦だ。  シャワーのコックを捻りながら、ハナは思った。  呼ばれて、着た服を脱がせられて、膝に乗って喘がされて、帰る。  テラは、一体、何をしたいのだろう。 「ぼくは……「フィオーレ」が好きだから……、ただそれだけなのに……」  ハナは鏡で自分の顔を見た。  醜い、涙に濡れて、腫れた顔。 (……)  男女のアルファ同士は、もっと奔放だと聞く。  アルファ同士なら、きっと、もっと簡単だったとハナは思った。  アルファなら、発情を薬でコントロールしたり、警戒する必要など、きっとないのだ。  アルファなら、閨をともにしても、普通に情をはぐくむ関係になれるのだ。たぶん。  けれど、ハナはオメガだから。  オメガだから、テラは、きっと抱きたくないと思っているのだ。 (──っ、く……)  気がつくと、ガリ、と唇を噛んでいた。  それは初めて抱いた屈辱だった。  オメガであることから逃れられると思った矢先に突きつけられた、オメガであるがゆえの呪縛。  でも、それはある意味、仕方のないことでもあった。  身勝手に傷ついて、勝手に失望するほど傲慢なことはない、とハナは思う。  だいたい、テラとこういう関係になったのは、ハナが誘ったせいではないか。 それを、今になって……。 「……しっかりしろ」  ハナは歪みそうな顔を鏡に向かって晒し、両手で軽く頬を叩いてみせた。

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