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第32話

 ひととおり泣きじゃくってしまうと、後には虚無感と空腹感が残った。  ハナが涙を拭いながら食事を終わらせるのを、黙って待っていたテラは、やがて全てが滞りなく済んだことを確認すると、顔を洗いたいと言ったハナがレストルームにこもるのを許し、静かにソファ席に座って待っていた。  レストルームから戻ったハナを見ると、 「まだ少し目が腫れているな」  と言った。 「はい、でも、もう──大丈夫です。ちょっと……、楽になりましたから」  言いながら、まだ胸が疼いた。でも、長い間していた片想いが破れたのだから、多少の痛みは当然だという気がしていた。 「そうか」  テラが頷くと、ハナは再び席に座り、言った。 「それより、「フィオーレ」のみんなを待たせてるんじゃ」 「少し遅れると連絡を入れたから、急がなくていい。きみの気持ちが落ち着いてから、あらためて場所を設けても、いいぐらいだ」 「でも……」  これ以上、甘えていいものだろうか。  ハナが迷っていると、テラがいきなり切り出した。 「きみは良くやっている。きみがフィンの代わりにステージに立たなかったら、「フィオーレ」はあのライブを最後に、瓦解していたかもしれない」 「そんなことは」  さすがにそれは言い過ぎだろうとハナが首を振ると、テラは険しい目をして言った。 「ハナ。今日はハードな話し合いになると思う。きみにとっても、我々にとっても」  テラは確たることは言わなかったが、ハナはその一言で、何かとんでもなく悪いことが起きたのだと、ぼんやり悟ることができた。 「大丈夫です。いきましょう。話を聞いてくれて、ありがとうございました、テラ」  ぺこんと頭をさげると、テラに髪をクシャッと撫でられた。兄にされているみたいだ。テラを促し、席を立つと、ハナは空を見上げた。 (──そうだ、ここで潰れるわけにはいかない……)  立ち込めていた暗雲は、未だ黒々としたままハナの心の中にあるが、少しだけ陽の光が差しはじめた気がする。  まだ頑張れる、とハナは思った。  フィンに最後のバトンを渡すまで、あと三日。  その時までは、止まるわけにはいかなかった。

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