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第35話

「それじゃ、今回、演る新曲について説明する」  明は、テラが頷くのを確認して、みんなに向き直った。 「「フィオーレ」は今回、ハナを入れた五人で踊る。振り付けと位置を各自よく把握してくれ。衣装も五人分、テラが用意した。曲もだ。テラ」  テラが、持っていたリモコンのスイッチを操作すると、部屋の四隅にあるスピーカーから音が流れ出した。ポップスにしては少しダークで、アップテンポの曲だった。楽譜が次々と配られる。 「テーマは「花」。この曲に合わせて一人ずつがハナと絡む」 「えっ」  そんなことをして大丈夫なのだろうか、とハナが驚いて顔を上げると、明が人の悪い笑みを浮かべた。 「噂を逆手にとって、ハナと四人が互いに絡み合うダンスにする。性的な匂いをさせたアルファと、男性オメガの饗宴」 「──……っ」 「明、人が悪いぞ」  ハナが息を呑んで固まったのを見たテラが、呆れて諭した。周囲の様子を見ると、既にメンバーのみんなには概要を知らされているのか、それほどの驚きは見せていない。  どころか、テラから衣装が配られはじめると、みんな嬉々としてその場で着替えはじめるので、ハナはびっくりして左右を見回して、一番奥のスピーカーの前に蹲ると、頭を抱えた。 「あっ、……あの! みなさん、ロッカールームでお願いします……っ!」  ハナが顔を真っ赤にして叫ぶと、Tシャツを脱いだオトハが素で不思議そうな表情をした。 「何言ってんの? 明もテラも出てったんだから、ハナも脱いだら?」  言いながら、十代後半の「フィオーレ」たちは下着姿になってゆく。 「舞台袖で早着替えやってるし、羞恥心なんていまさらだにゃ」  それは、確かにそうなのかもしれなかったが、ハナは目のやり場に困り、部屋の隅へ身体ごと向けたまま、彼女たちの逞しさに目眩がするのだった。 「にしても考えたよね、あたしたちが互いに絡んで見せて、ハナとも絡みを入れるなんて」 「ネネは絡まれるより絡む方がいいにゃ」 「噂は噂、しかもガセなんだし、炎上上等ってやつ?」 「有名になってファン獲得するチャンスじゃん。ラッキー」  女子高校生男装アイドルの貴重な生着替えの場に居合わせる試練が終わると、揃った彼女たちとハナのいるスタジオへ、明とテラが入ってきた。 「曲のテンポは百八十。センターはハナだ」 「ぼ、くですか……?」 「そう。オープニング、ピンでスポットを当てて、ソロパートが各自ある。三日でものにしてくれ」  明が言うと、ハナも、「フィオーレ」たちも、緊張した顔つきになって頷いた。 「ハナ。それからきみたちも」  明の隣りで「フィオーレ」たちの衣装の最終チェックをしていたテラが、ふと顔を上げた。 「わかっていると思うが、この演目は、フィンの復帰ライブでしか演らない。一度きりの幻のライブにする。潰れるなよ。──演れるな? ハナ」 「は──はい……!」  こうして、ハナたちの、必死に踊り明かす三日間が、はじまった──。

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