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第44話

「明と少し、揉めてな」 「兄さんと……?」 「きみが調子を崩した話をしなければならなかったので、私の想いと今までの経緯を、軽く伝えておいただけだ。大したことはない。……好きにしろと言われたので、好きにしにきた」  一悶着して明の許可を取り付けてくるところが、テラの気持ちが本気であることを示していた。同時に、フィンもテラの気持ちを知っていることや、他の「フィオーレ」たちの耳にも多分、入っているだろうこと、いわば外堀を埋められていっていることに、ハナは今になって気づいた。 「──ところで、ハナ。きみのバース性について、情報を流した人物が、特定された」 「……っ」  テラが表情を変え、言ったことに、ハナは、息を呑んで固まった。 「……誰か、聞かないのか?」 「はい……。もういいんです。ぼくが……」  あの五人で踊った公演の日、牧野がきていなかった。 「きみのせいではない。泣くな……」  テラはそう言ってくれたが、牧野ことを考えると、今も苦しくなる。ある意味、牧野を追い込んだのは、ハナの言動だっただろうからだ。  するとテラは、そんなハナの前に、やにわに跪いた。  優しい目をして、膝に置いていた手を取られ口付けされる。 「ハナ。きみのせいではない、と言っても、きみは自分を責めるかもしれないから……、私がその分、きみを愛そう」  ハナの肌にテラの唇が触れた瞬間、キュッと心臓が音を立てて縒れた気がした。 「テラ……」 「愛している、ハナ」 「ぼく、は……」  ハナが慌てて口を開こうとすると、そっと指先で唇を押し止められた。 「急がなくていい。夕飯でも一緒にどうかと思ったが、やはり今日は出直そう」  言って、テラはハナの額に触れるだけのキスを落とすと、踵を返した。  その時、五時半の鐘が鳴った。  執事の真島が帰る時間だった。ハナは居間の扉を開けようとしたテラを追って、立ち上がると彼の名を呼んだ。 「テラ……!」 「?」 「今日は、ぼくを……っ、家に、泊めてくれませんか……?」  目を瞠ったテラに、ハナは言った途端、耳まで赤く染まるのを感じた。  少し、即物的すぎたろうか……。  引かれたら、どうすればいいだろうか……。  そんなことをぐるぐる考えたくなるほどの間があり、気がつくと、テラがハナの目の前にいることに気づいた。 「──それは、あの時の答えだと、受け取って、いいのかな……?」 「は、──はい……、ぼく、は……っ」 「ストップ」 「?」  ハナが口を開きかけると、テラは指先でハナの唇を制した。  そして、眦を少し赤くしながら、言った。 「了解した。事故りたくないから、ドライブが終わるまでは、お互い黙っていよう、ハナ」  急に、アルファの貌になったテラに、手を引かれる。  そのまま、大輪の薔薇のような微笑を浮かべたテラに、ハナは耳が赤くなるのを意識した。 「きみの言葉は、ベッドの中で聞かせてほしい」

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