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第22話 再会

「悪いね。・・・やっぱり気まずいよな」 「・・・若干・・・でも、いずれ分かることですし・・・」 真人は、14年ぶりに理人と会うと決めた。 理人が指定してきた場所に向かう途中、慧を迎えに来た車の中で真人は、慧を弟に自分のパートナーとして紹介したいと話した。 数日前、思いがけず理人の本音を聞くことになった慧は、理人が休みを取ってからもちろん会っていない。理人が最後に言い放った、「優しい男」が、兄の真人だと知ったら、理人はどう思うのか、慧は考えるだけで胃が痛かった。理人との出来事は、真人には話せずにいた。 「どこで・・・会うんですか」 真人の車の窓から、流れる見慣れない景色を見ながら、慧は尋ねた。 「・・・病院」 「え?」 「都立総合病院・・・南町の」 「は・・長谷川さん、体調悪いんですか?」 「いや・・・理人は元気だよ」 それ以上のことは話さず、真人は病院の立体駐車場へと車を走らせた。 T大付属病院の半分ほどの敷地に建てられた、地域密着型の病院。特に有名なのは脳外科で、全国から患者が集まり、メディアにも注目されていた。 真人は車を降りて、待合室に向かって歩きながら、少しずつ話し始めた。 「理人はここに入院している人に付き添っているんだ。かなり大きな手術を控えていて・・・」 足を止めて、真人は慧に向き直った。 「黒瀬一樹さんなんだ。入院しているのは」 「え・・・っ」 「不祥事っていうことでそちらの病院では通ってるんだってね。あの人らしいよ、全く・・・」 「あの・・ひと?」 慧はどきん、と心臓が痛んだ。真人の口調に気になるものがあった。 それに気がついた真人が、はっとした顔をした。そしてすぐに優しい表情に戻った。その微妙な変化が、さらに慧を不安にさせた。 「古い・・・知り合いなんだ。慧には、職場の上司と先輩だから、気を遣わせてしまうね」 「そう・・なんですか・・・」 真人の隣を歩きながら、慧は勝手に脳内再生される黒瀬と理人のあられもない姿に、じっとりと汗をかいた。理人の姿がいつのまにか真人にすり替わり、心臓が身体の内側からどんどんと叩いてくる。 入り口の自動ドアをくぐり、患者でざわめくロビーを抜けた真人の腕を、慧は急に掴んで止まった。 「慧?」 「あのっ・・・俺、やっぱりここで待ちます!」 真人の腕を掴んだまま、慧は俯いた。 理人に会うのも、黒瀬に会うのも、真人が黒瀬と話すのも、真人と理人の関係を目の当たりにするのも、慧にはどれも耐えられないことだった。 困惑した真人に、慧は無理矢理笑顔を作って答えた。 「俺・・・教授が病気とか、びっくりしちゃって・・・それに真人さん、長谷川さんに会うの、子供の時以来ですよね。大事な再会は・・・二人だけの方がいいと思います」 「・・・そうか・・・そうだな」 慧は真人の腕を離した。張り付いた笑顔で、勢いをつけて明るい声を出した。 「大丈夫ですから。ちゃんと・・・待ってますから」 待っている、という言葉にいくつかの意味を込めて、慧は答えた。 「慧。必ず戻ってくるから・・・ここで待ってて」 「・・・はい。帰ってきてくださいね」 黒瀬の病室に向かう真人の背中を見送って、慧はロビーのソファに腰を降ろした。 「待って・・・られるかな・・・」 ドアをノックする音に、理人は立ち上がった。 「・・・どうぞ」 理人の声を待って、引き戸がするすると開いた。 日焼けした肌にシルバーのピアス。髪を肩まで伸ばした、大人になった真人が、立っていた。 14年ぶりに再会した真人と理人は、言葉を発することが出来なかった。 真人はゆっくりと病室に足を踏み入れると、理人の向こう側のベッドで眠っている黒瀬が見えて、立ち止まった。 知っている黒瀬よりも大分痩せた様子に、真人は目を疑った。 お互いの名前を呼ぶことが出来ない代わりに、理人が黒瀬の寝顔を見下ろしてか細い声を出した。 「さっき検査から戻ってきて・・・鎮静剤で眠ってる」 「・・・酷いのか」 「最近まで仕事出来ていたのが・・・奇跡だって・・・」 語尾がかすれ、理人は片手で口を覆った。 真人は静かに理人に近づいた。そして、その身体をそっと抱きしめた。 理人は黙って、真人の腕に身を委ねた。 「一人で・・・ずっと付きっきりなのか」 「三日目・・・」 理人は真人を見つめた。そして、弱々しく手を伸ばし、声を震わせて言った。 「・・・遅かった・・・ずっと待ってた・・・」 「・・・ごめん。本当に、遅くなって」 「言いたいことたくさんあったのに・・・許せなかったのに・・・っ」 理人は真人の腕を強く掴んだ。真人は理人の頭を胸に抱き寄せて、病室の無機質な天井を見上げた。 「全部受け止めるから・・・」 「・・・もう・・いい・・・会えたから・・・」 「理人・・・ごめん、理人・・・」 「まひと・・・俺の真人・・・」

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