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第24話 夢
「・・・りひと・・・」
黒瀬のゆっくりとした口調に、ベッドの端に突っ伏していた理人が目を覚ました。
横たわったままで、黒瀬は理人に向かって手を伸ばした。骨が目立つようになった黒瀬の手を、理人は両手で優しく包み込んだ。
「俺はどのくらい・・・寝てた・・・?」
「・・・半日くらいです」
「そうか・・・よく寝たな・・・夢を・・・見てた」
「どんな夢ですか」
「・・・お前の・・・」
黒瀬が身体を起こしてくれと身振りで伝えると、理人は少し心配そうにベッドを起こした。
黒瀬は、いつもよりずっとゆっくりとしたスピードで、理人に尋ねた。
「初めて・・・会った時のこと・・・覚えてるか」
「・・・もちろん覚えてます」
「お前は・・・あの時・・・往来で・・・」
「その・・・話ですか」
「本気だったら・・・ここでキスしてみろと・・・言ったな」
「・・・若気の至りです」
黒瀬は俯いた理人の頭を引き寄せ、自分の胸に抱き留めた。痩せた身体の肋骨に触れて、理人の心臓がキリキリと痛んだ。
「あの時は・・・恥も外聞もなく・・・言うとおりにした・・・」
「すみません・・・」
理人の髪を撫でながら、黒瀬は小さく笑った。そして話を続けた。
「夢で・・・俺は、断ったんだ」
「え・・・?」
「怒るなよ・・・夢だ。それで・・・断って・・・お前が去っていくのを・・・必死で追いかけた・・・」
「あなたが・・・僕を?」
「そうだ・・・だから、夢で・・良かった」
理人は思わず顔を上げた。
「もし・・・本当に断っていたら・・・お前はここにいない・・・」
「一樹さん・・・?」
黒瀬は理人をじっと見つめ、頬をそっと撫でた。その手に理人は自分の手を重ねた。
「勇気を出して・・・お前に・・キスして良かったよ・・・理人」
黒瀬は理人の唇に、親指の先で触れた。
そのまま自然に二人は、唇を重ねた。優しく、静かなキスだった。
「少し・・・疲れた」
「お休みになってください。ここにいますから」
「・・・ああ。・・・そうだ、理人」
ベッドを戻し、黒瀬は緩慢な動きで身体を横たえた。心配そうにのぞき込む理人に、黒瀬は言った。
「無事に・・・戻ってきたら・・・小さな病院でも、やろうかと・・思ってるんだが・・・」
「・・・はい・・・」
「地域に根ざした・・・小さな病院で・・・」
黒瀬は半分眠りに落ちかけていた。それでも話すことは止めなかった。
「医者は・・・俺だけで・・・ナースも最低限で・・・」
黒瀬は再び理人に手を伸ばした。理人ももう一度、黒瀬の手を握った。
「それで・・優秀な・・・薬剤師を・・探してるんだが・・・」
理人の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「ええ・・・探しておきます・・・」
黒瀬は微笑んで、眠りに落ちた。
手術は、明後日に決定した。
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