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三つ子、初めての喧嘩

「もうカエラなんか知らない!」 「俺だってレイラのことなんか知らないから!」 常磐の豪邸に響く珍しい声に使用人達は驚いた。この豪邸に住んでいるのは世界的大財閥のTOKIWAグループのトップ、常磐鴻來の長男である常盤十六弥とその嫁であるカレン。そしてその息子である三つ子のカエラとサハラとレイラである。 普段から仲の良い家族で、父の十六弥にからかわれて泣かされる末っ子のレイラの声はよく聞くが、喧嘩をするような声は聞いたことが無かった。 「どうした喧嘩か、珍しい」 「十六弥君たすけて」 隣の部屋に居たらしい十六弥が声を聞きつけやってきた。そこに助けを求めるように眉を垂らしてやってきたサハラ。 今年で7歳になる三つ子達はとても仲が良く、今まで喧嘩は勿論、ちょっとした言い争いすらしている姿を見たことがなかった。 しかし今はお互いを睨みつけ合い怒りを露わにしている長男のカエラと三男のレイラ。そしてどうしていいか分からず狼狽える次男のサハラ。 「何があったんだよ」 珍しい光景にとりあえず喧嘩の原因が何なのかを確認しようとする十六弥。弟に激甘のカエラが怒るのも、兄大好きなレイラが怒るのも、一体どんな理由があるというのか。 「だってレイラが一人じゃ行っちゃダメって言ってたのに、一人で門の外行っちゃったんだよ!しかも怪我して帰ってきたし!」 「え、レイラ一人で外行ったのかよ」 常磐家の周りは大通りが近く車や人の通行が多い。その上三つ子達は小柄で見た目が幼く贔屓目なしにとても可愛い顔をしている。かつ、TOKIWAグループの御曹司ということもあり、誘拐などの危険も可能性がない訳では無い。そのため今はまだ外に出る時には大人と一緒に、という約束をしていたのだ。 「何でレイラは一人で外に出たんだ?」 「・・・・・・」 約束を破って一人で外に出たのはレイラが悪い。ただ、普段レイラはそういった約束を破るタイプでは無い為、何か理由があるのではと思い聞いてみた。しかし、十六弥の問いに口を閉ざして何も答えないレイラ。その瞳にはいっぱいの涙が浮かんでおり、今にも溢れ落ちる寸前だ。 (今まで喧嘩なんかなかったからな〜、どうしたもんか) 理由を聞かずにレイラだけを悪いと言うことも出来ず、困ったなと考える十六弥。その間にレイラの目からはとうとう涙が溢れ出て、それに反応するように涙目になっているカエラとサハラ。 お互いに極度のブラコンなため、レイラを泣かしてしまったことも、二人を仲直りさせれないこともカエラとサハラには悲しいことなのだろう。 「大丈夫だから、少し待ってろ」 そう言いカエラとサハラの頭を撫でると、レイラを連れて隣の部屋に移動した。小さな体を膝の上に乗せ、抱き締めると声を上げて号泣し始めた。 「どうしたんだよ、何か外にあったのか?」 「ひっく、ぅ、だって、、カエラが本当はいちごのケーキが、いちばん好きって、、」 「ケーキ?」 泣きながら何とか話し始めたレイラの言葉をどうにか聞き取り理解しようとする十六弥。 泣いていてわかりにくい話の内容を繋げるとこういうことだった。 昨日おやつにこの辺りで有名なケーキ屋のケーキを三人で食べた。いちごのショートケーキとガトーショコラ、そしてモンブランがあったらしい。何かを選ぶ時、三人はいつも下から順にレイラ、サハラ、カエラの順で選ぶ。それは別に十六弥や周りが言ったのではなく、弟大好きなカエラやサハラが自分達で決めたこと。 そして昨日もレイラが最初にいちごのショートケーキを選び、サハラはガトーショコラ、カエラがモンブランを食べたようだ。そして食べ終わった後に会話の流れでどのケーキが一番好きかという話になり、兄弟の中で一番のスイーツ好きのカエラが、一番好きなのはいちごのケーキだということを知ったらしい。 甘い物なら何でも好きなカエラの、一番好きなものを知らずにとってしまったことにレイラは落ち込んだ。しかも、昨日のケーキはとても人気な店のものでなかなか買うことが出来ないものだった。 ぶっちゃけ十六弥やカレンに言えばすぐにでも手に入るのだが、レイラはいつも自分を優先してくれるカエラのために自分でいちごのケーキを買いに行こうと外に出たらしい。何度か行ったことがあるので店の場所はわかっていた。が、やはり人気のケーキ屋なだけありいちごのショートケーキは売り切れていたらしい。 ケーキを買えなかった悲しさでとぼとぼ歩いていると人とぶつかり転けて足を擦りむいた。いつもならそんな時一番に心配してくれる兄達もそばに居らず、悲しみの中家に帰ると一人で外に出たことをカエラに注意されてしまった。 心配から少し口調が強くなってしまったカエラと、ケーキが買えなかったことで理由が言えず黙り込んだレイラによって事態が悪化して先程の状態になってしまったようだ。 理由を聞いてしまえば、何て可愛い喧嘩なんだろうと思ってしまうのは十六弥が親バカだからだろうか。 「理由を聞かずに怒ったカエラもだけど、一人で外に出たレイラも悪いだろ?」 「グス、、うん、」 「じゃあちゃんとごめんなさい出来るな?」 「ん」 涙で濡れた瞳のまま、しっかりと頷いたレイラ。今回の事としてはやはり一人で外に出たレイラがいけないだろう。ただ、それが全て悪いということでもないと思う。そう思いながらまたカエラ達のいる隣の部屋に行くと・・・ 「レイラ怒゛ってごめんね゛ーーー」 「喧゛嘩じないでーーー」 まさかの先程のレイラのように号泣するカエラとサハラの姿が。それを見て落ち着いていたはずのレイラまでもが・・・ 「一゛人で外に行ってごめんね゛ーーー」 両手いっぱいに号泣する息子達を抱えて苦笑いの十六弥。どうにか仲直りは出来たようだが、この状況はどうしたものか。 後日 「カエラ、いちごおいし?」 「うん!」 「俺のいちごもあげるね」 三人で仲良くいちごのショートケーキを食べる姿に使用人達はほっとした。そして、これからおやつは三人とも同じものにしようと心の中で決めたのだった。

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