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十六弥とカレンの出会い
ヨーロッパのとある国のとある店。そこは若者が多く集まり夜な夜な踊り明かす、所謂クラブだ。ただ、そのクラブは会員制で会員になるためにも紹介のみという、少し敷居の高いある程度の地位がある人間が集まる社交の場でもあった。
「よう十六弥、久々だな」
「最近忙しかったんだよ。ったく、うちの親父は人使いが荒いんだよな」
そのクラブの常連である長身で誰もが振り返るような美丈夫は名前を十六弥。フルネームも年齢も不明だが、いつもふらっと現れては好きに遊びまたふらっと帰っていく。たまに同じく目立つイケメンの亜津弥と美女の玲弥を連れてくることもあるが、基本は一人でやってくることが多い。
暗い店内でも目を引くその顔と座っているだけなのにその身から放たれるオーラというのか、いるだけで目立つ男だった。
「ほら、いつもの」
「さんきゅ」
バーテンダーのサムが十六弥の前にグラスを差し出す。やたらと酒の強い十六弥はいつも一杯目ジントニックから。それを水のように飲み干しながらホールを見渡す。目立つ十六弥の存在はこのクラブに通う人間なら誰もが知っており、共に一夜を過ごしたいと思う人間は男女問わず沢山いた。
強すぎるオーラに反し、話しかければ返事はするし機嫌が良ければ一緒に騒ぎもする。意外と親しみやすい男だが好みははっきりしていて、気に入らない相手にはとことん冷たい。
「・・・おい、あいつなんだ」
「あぁ・・・あいつは、」
十六弥に問われサムが目を向けた先にいたのは、全身をブランド物で揃え両脇にガラの悪い男を連れ下品に笑い声を上げる男。近くにいた若い女性にセクハラ紛いの行動までする知性も品性もない姿に十六弥は眉を顰める。
「最近ここに来るようになった男で、確かトンプソン議員のバカ息子だよ。親父さんは立派なのに、あいつはダメだな」
「ふぅーん・・・」
手元のジントニックを飲み干しながら男を観察するように眺める十六弥。先程までにこにこしていたはずの表情がつまらなそうなものに変わる。どうやらあの男の存在が気に入らないようだ。ただ、それはこのクラブ内にいる人間も同じで、あの男に良い印象を持つものはほとんどいなかった。
しかし、ここではみんなあまり周りに干渉しない。それは普段の身分や地位などに関係無く、この場でだけの楽しい時間を求めて集まっているから。わざわざ楽しい時間を他人に干渉して壊したくないのだ。
「あら、十六弥じゃない!」
「ハンナ久しぶり。相変わらずいい女だな」
「十六弥も相変わらずいい男ね」
不快な気分に下がりつつあった空気をパッと晴らすように声を掛けてきたのはハンナ。クラブの常連で20代半ば程の彼女は自らは言わないが、モデルとして活躍するかなりの美女である。十六弥とも顔馴染みであり、お互いに軽口を叩き合う程には仲が良い。
「丁度いいわ、今日うちの新人ちゃんと来てるのよ。良かったら連れてきていいかしら?」
「美人なら歓迎する」
「じゃあ問題ないわ」
そう言いその新人ちゃんとやらを呼びに言ったハンナの後ろ姿を見送る。厳しいモデルという職業を生き抜いている彼女は美しいだけでなく、周りに飲まれない強さがあり、十六弥はハンナのことを気に入っていた。そのハンナが息抜きの場としているこのクラブに連れてくる人間は限られている。その新人ちゃんとやらに興味を惹かれながら待っていると、何やら言い争うような声がホールから聞こえてきた。
「俺達と遊ぼうって誘ってやってんのに断るのかよ!」
「あんた達なんかと遊ぶ程暇じゃないってわからない?」
「ふざけんな!!」
声がした方に目をやるとそこには先程の下品な男がハンナと、顔は見えないがもう一人の女性に絡んでいるのが目に止まった。
その下品かつ横暴な男の言動にイラつきつつ十六弥はハンナ達の元へ向かう。男を全く相手にしていないハンナ達の態度に、相手の怒りがどんどん増していく姿が遠目にも伝わる。
「私達、あっちにいい男待たせてるのよ。あんたとは違って素敵な男を」
「馬鹿にすんじゃねぇぞ!!!」
怒りに手を出そうとした男の拳がハンナ達に届く前に二人を自分の腕の中に引き寄せた十六弥。男の拳は止まることが出来ずに近くのテーブルを殴り鈍い音を立てた。
「っぐぁッ!」
「自爆してやんのだっせ〜」
「っ、てめぇいきなり出てきて何様だよ!!!」
ハンナともう一人を抱き寄せる十六弥に男が噛み付くように怒鳴る。女に手を上げるようなクソには負け犬の遠吠えが似合うねぇ。
「そりゃあ、この美女達に待たされ過ぎて迎えに来ちゃったいい男に決まってるだろ」
十六弥の言葉に顔を真っ赤にした男が何かを言おうとするが、十六弥に睨まれ口を閉じた。ふざけた口調とは違う鋭い視線に男は恐怖を感じたのだ。圧倒的な威圧感に、手を出された訳でもないのにこいつには勝てない、そう思わされた。
「お前がレベルのわからない程の馬鹿じゃねぇってならさっさと失せろ」
「・・・行くぞ」
十六弥の言葉に、連れの男達を連れてその場を去っていく男。どうやら勝ち負けが分かるくらいの頭は持っていたようだ。事実、あのまま十六弥に喧嘩を売っていれば仲間が何人いようと負けていただろう。それだけの強さが十六弥にはある。
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