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はじめてのおつかい

「よし、買ってくるものは?」 目線を合わせるようにしゃがんだ十六弥の前には仲良く手を繋いだ三つ子。先月5歳の誕生日を迎えたばかりだ。 「「「ケーキ!」」」 「いくつ買うんだ?」 「「「5こ!」」」 「OK」 今日は三つ子の母であるカレンの誕生日。そこでお祝いのケーキを買ってくるという大役を父から任されたのだ。買いに行くのは家から歩いて15分程の位置にある “dadam” というケーキ屋。カレンのお気に入りの店で三つ子も今まで何度も一緒に訪れたことのある店だ。 しかし、三つ子だけでおつかいに行くのは実は今回がはじめてのこと。行き慣れた場所とはいえ不安は大きい。 なんと言ってもこいつらはやたらと可愛い。親の贔屓目なんてものでは決してない。世間一般的誰が見ようと可愛い。これ常識。そう十六弥は思っていた。 なので、おつかいと言いつつ実は家からケーキ屋までの周囲数100mは現在全面通行止め。人がいないとおかしいので、通行人から道路を通る車まで全てがTOKIWAの手のものによるエキストラ。高級住宅街ということもあり、近所の知り合いには事前に通達済。完璧かつ安全なおつかいデビューの場は整っていた。 そんな状況であることを知らない三つ子は仲良く三人手を繋いで家を出発。それを後ろで見届けていた十六弥達含め常磐家の使用人達は一同にそれぞれの配置に移動。距離を保ちつつ三つ子の後ろをついていく予定だ。 ワンワン! 「あ、モニカだ!」 家を出発してまだ数十m。柵の隙間から鼻先を出して吠えているのはゴールデンレトリバーのモニカ。人懐っこいモニカは家が近いこともあり普段から三つ子にもよく懐いていた。 「今日も毛並つやつやね〜」 「かわい〜」 「もふもふ〜」 柵越しにモニカに抱き着き、よしよしと撫でる三つ子。しっかりと手入れされたふわふわの毛並を堪能し始めた。柵が無ければこのまま一緒に遊びだしそうな勢いである。 なかなかその場から移動する気配のない様子に、後ろから見守っていた十六弥はスタート間も無いというのに若干の不安を感じた。 「・・・まだ二軒隣までしか進んでないぞ」 そう、モニカがいるのは常磐の家から二軒先の家なのだ。すでに10分はモニカと遊んでいる三つ子。まだまだ動き出しそうな気配がない。 仕方ないと思いつつ十六弥はポケットからiPhoneを取り出した。そしてある所に電話をかける。 「よう、悪いがちょっと手伝ってくれるか?」 すぐに通話は終わり視線を三つ子に戻すと変わらず柵にへばりついた状態。最早自分達の目的を覚えているのか疑いたくなるほどに夢中だ。今すぐ三人の元に行って軌道修正したい所だが、ぐっと我慢する。後ろをついて行っていることは内緒なのだ。 「やあやあおチビちゃん達」 ふいに掛けられた声にモニカに夢中だった三つ子は驚き顔を上げる。そこにいたのは40代程のブロンズの男。急に話しかけられたことには驚いたが、三つ子達にはその男に見覚えがあった。何よりその男はモニカと同じ柵の向こう側にいる。 「「「レオナルドさん!こんにちは〜」」」 モニカの飼い主で二軒隣に住むレオナルド。十六弥がさっき電話を掛けた相手でもある。事前に今日のおつかいデビューの話を聞いていたレオナルドは、この足止め状態を打破する為の助っ人ととしてやってきたのだ。 「今日はカレンの誕生日だろ?おチビちゃん達は何かパーティーの準備はしなくていいのかい?」 「!そうだった!!」 「今ね、ケーキを買いに行く途中なの!」 「おつかい中なの!」 「そりゃ大役じゃないか。モニカと遊んでる場合じゃないね?」 レオナルドの問いかけによりどうにか本来の目的を思い出した三つ子。というより、モニカに夢中ですっかり頭からその事実が抜けていたらしい。この先が不安である。 レオナルド達に手を振りながらやっと進み始めた三つ子。既に家を出発してから20分が経過。まだ振り向けば自宅が見える距離。 「助かった」 「先行き不安だな」 「全くだ」 十六弥もレオナルドに礼を言い三つ子の追跡を再開する。少し前をお揃いの服装で手を繋いで歩く姿は、離れて見ていると小人のようで可愛らしい。三男のレイラを挟んで右に長男カエラ、左に次男のサハラという並びはいつも通り。しかし、カエラが空いた右手に持っている木の枝はいつの間に拾ったのか。サハラよ、ポケットからお菓子がはみ出している。靴紐が解けているぞレイラ。

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