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宝石はその人 (別世界パロ)

とある砂漠地帯にある王国。雨が少なく朝晩の気温差により育つ作物も限られた砂漠の中で、その国はオアシスを囲み整備された環境の元、砂漠の中にあるとは思えぬ繁栄をみせていた。 「また窃盗団が出たらしいぜ」 「あぁ、あの“光の窃盗団”か」 この国では数年前から度々ある窃盗団が貴族や豪商の屋敷を中心に現れていた。“光の窃盗団”。国民はその窃盗団のことをそう呼んでいた。 夜中に屋敷に忍び込んでは屋敷中をかけまわり、こう尋ねる。 『ここに光輝く伝説の宝石、“月光”はある?』 月光とはこの国に昔から伝わる昔話の中に出てくる宝石。真っ暗な夜空を明るく照らす満月のように、人々を照らし導く不思議な宝石だと言われている。 光の窃盗団はその月光を探している。そして、その月光にしか興味がない。 この窃盗団は月光以外の物は何一つ“盗まない”。 あくまで狙いは月光、ただ一つということだ。 「光の窃盗団だって」 「え〜窃盗団って言っても別に何も盗んでないのに」 「まあまあ。で、今日はどの屋敷に忍び込む?」 中央広場にある塔の上から街を見下ろす三人。普段は入ることの出来ないその場所に人がいることに街の人々は気づかない。 「イザヤ君が次は街の東の方に行ってみるかって言ってたよ」 「俺あの緑がいっぱいの屋敷入ってみたい!」 「数ヶ月前に移住してきた豪商の?」 「そう!」 どうやら今夜のターゲットが決まったようだ。 光の窃盗団と呼ばれている彼らは、主にこのカエラ、サハラ、レイラの三兄弟がメインで動いている。陽射しの強いこの国では珍しい、日に当たったことがないかのような白い肌と光を透き通すような白金の髪。しかしその目立つ容姿は肌を覆う布に隠され人々の視界に入ることはない。 太陽が沈み夜になると気温はぐっと下がる。多くの者が寝静まった深夜、王国の東に位置する豪商、ユーキ家の屋敷ではまだ侵入者の存在に気付いた者はいなかった。 数ヶ月前に他国から拠点をこの国に移したユーキ家。商いの才に秀でており、また他国の珍しい商品を取り扱っていることもあってこの国でも規模を広げつつある豪商の家である。 そんなユーキ邸には勿論使用人や屋敷を護る衛兵もいる。しかし、そんなことは既に数々の屋敷に侵入した経験のある光の窃盗団にとってはなんの障害にもならなかった。 「俺は下の階から攻めるからサハラとレイラは上からいって」 「「了解」」 慣れた様子で手分けして屋敷内を探り始めた三人。月光を探しているなら宝物庫を目指すのが一番であるが、三人はいつも屋敷中を全て回っていく。 「部屋が多いな・・・」 「俺達も分かれよっか」 「そうだな」 廊下を歩く使用人達から上手く身を隠しつつ素早く屋敷内を探っていく。三兄弟の末っ子にあたるレイラは廊下を歩く人を避け、渡り廊下から身を乗り出し軽い身のこなしで外壁を伝い上の階へと移動した。 木から木へ飛び移ることも、塀の上を走り回ることも、三兄弟にとっては難しいことではない。その身体能力の高さが光の窃盗団が数々の屋敷への侵入を可能としている大きな要因だった。 (最上階は私室だから忍び込むのは危険かな) この国の屋敷の作りは最上階にその家の者達の私室をおくことが多い。深夜ともなれば大体のものは私室で眠りについている頃、鉢合わせすることは避けたい所ではある。が、どこに月光があるかわからない。時には屋敷の住人との接触により何かしらの情報を得られる可能性だってあるのだ。 (ちょっと覗いてみるか) レイラはまた外壁伝いに移動し、一つの大きな窓へと近づいた。部屋の中に明かりはない。ガラスに顔を近づけ中を覗くとやはり誰かの私室のようで、中には大きな天蓋付きのベッドが見えた。 (寝てる、かな?) ベッドの膨らみからそう判断したレイラは幸いにも鍵の掛かっていない窓をそっと開き中へと侵入した。物音もたてず窓から室内へと着地し、素早く近くの机や棚を探る。無闇に荒らすことはせず、しかし見落としがないように視線を次々へと走らせる。 この部屋にはなさそうだ。そう思い部屋を出ようとした時、暗闇の中からこちらを見つめる視線に気付いた。 「・・・起こしちゃったか」 「光の窃盗団か」 「せいかーい」 目を覚ましたばかりだからか少し掠れた低いその声は、とても落ち着いており耳に心地よかった。上体をベッドから起こしたことにより月明かりに照らされた部屋の住人の姿がレイラからははっきり見えた。 「わーお、お兄さん凄く男前だね」 乱れた髪はレイラとは真逆の黒色で、少し垂れ気味の目にスっと通った鼻筋。寝起きだからか若干の気だるさから何だかやたらと色気のある男がそこにいた。 「お前は、全く顔が見えないな」 そう言われたレイラは大きなフードを被っており、口元がうっすら見えるがそれすら布で覆われた状態だった。 「流石に堂々と出来ることをしてないからね」 「この家に月光はないぞ」 「ん〜一応全部見てからそれは決めようかな」 そんな会話を交わしている間にも男はベッドから降り、ゆっくりとこちらに近づいてくる。どうやら寝る時はズボンしか履かないらしく、上半身は裸。綺麗に割れた腹筋からも普段から身体を鍛えていることが伺える。 「お兄さんは、ん〜ユーキ家の息子・・・長男?」 「残念、俺は次男だ。下調べはある程度しているんだな」 ユーキ家は家長とその妻、そして息子が二人。目の前の男はどうやら次男の方らしいが、次男ってまだ17才じゃなかったか?しかしどう見ても17才の仕上がりではないぞ。 「育ちすぎでしょ」 成長期真っ只中でまだまだ身体の出来上がっていないレイラは、自分と一歳しかかわらない目の前の男に若干嫉妬した。いやいや俺の成長はこれからだ。そう言い聞かせつつそっと窓枠に手をかける。大分男との距離が縮まっているのだ。襲いかかってくる様子ではないが、いつでも逃げれるようにしておかなくてはいけない。

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