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宝石はその人 3

その頃レイラを抱えたままユーキ邸をあとにした三人は王国の中央にあるアジト、兼自宅まで戻ってきていた。 「はぁ〜?顔見られたのかよ」 帰ってきた三人を出迎え報告を聞いたイザヤは呆れた顔をする。ちなみにイザヤは光の窃盗団のボス、ではなく三人の父親である。 「しかもキスされた・・・」 「はぁ!?」 レイラの言葉に頭を抱えるイザヤ。何をやっているんだ。 「なに?あのユーキって家はそんな危ない家だったのか?」 「んーん、家自体はクリーン。なんの問題もない家だったよ」 「むしろ優秀、怪しい物もなかったし使用人達も良い顔してた」 「きっともっとあの家は力をつけるよ。新しい商売も近々始めるんじゃないかな」 実はカエラ達はただ月光を探すためだけに家中を探っている訳では無い。忍び込んだ先の内部調査もしているのだ。 「ていうか、あの人、確かランだっけ?顔見られたけど俺の正体は分かってなさそうだった」 「逆に分かってて手出したならすげぇよ」 「普通は無理だよな」 カエラ達の髪色や目の色は珍しい。だが、それ以上に有名でもあった。この国で白金の髪とアメジストの瞳といえば、それだけでカエラ、サハラ、レイラの三人を指すほどに。 数日後。 「やっと見つけたぞ」 日が沈んだ夕暮れ。中央広場にある塔の上。 「げっ!」 「キス魔!」 「接近禁止!」 カエラ達三兄弟の秘密基地であり、本来なら入れる人間も限られたはずのそこに現れたのは、ユーキ・ラン。まだ記憶に新しい数日前の出来事を思い出し、カエラとサハラがレイラを護るようにランの前に立つ。 「本当に三つ子だったのか・・・」 今日はあの夜と違い、三人とも素顔を晒した状態。そこには暗闇でもわかる白金の髪とアメジストの瞳を持つ同じ顔の三人がいた。三兄弟は三つ子なのだ。しかしそれぞれの持つ雰囲気で似ているが、そっくりではない三つ子。中でも一番色味の薄いレイラは、暗くなってきた状態で見ると、まるでそこだけ光で照らされたように明るく見えた。 「この国で白金の髪にアメジストの瞳の人物を聞けば誰でも知ってるんだな」 「俺達有名人だから」 「そりゃそうだよな・・・ まさかこの国の王子だとは思わなかったぜ」 そう、光の窃盗団と呼ばれるカエラ、サハラ、レイラの正体はなんとこの国の王子だったのだ。 「どうやってここまで入ってきたの」 「王子様達と同じで忍び込んだんだよ」 そう言われてしまうとカエラ達は反論が出来ない。人の不法侵入に文句を言えない程に自分達は数多くの場所へ潜り込んでいるのだから。 「なぁ、王子様に手を出した俺は何か罰を受けるか?」 本来なら王子であるレイラに手を出したランに対して何かしらの罰が与えられるのは免れないだろう。しかし、 「・・・むしろ油断した俺が悪いってイザヤくんに怒られたし」 実はあの後、こってりと父親でありこの国の国王であるイザヤにお説教をくらったレイラ。普段怒られ慣れていないために思い出しただけで涙目だ。そんなレイラをお兄ちゃん二人がよしよしと撫でる。 「そうか、なら次も許してくれよ」 「っぅわ!」 いつの間にか近づいていたランが、言うと同時にレイラを抱き上げた。急に体が浮き不安定になったことで驚いて咄嗟に目の前のランへとしがみついたレイラ。身軽だとは思っていたが、実際は想像以上に軽い。 背後ではカエラとサハラがレイラを返せ!と騒いでいるがランは一切気にした様子がない。というより、レイラのことしか見ていない。 「ほんと可愛いな。なぁ、あの日から俺の事を一度でも思い浮かべたか?」 「え、なにっ」 至近距離で見つめられ、ついあの夜のキスのことを思い出し顔が赤くなるレイラ。今だけではない、実はこの数日何度もあの夜のことを思い出した。 初めて会った男に急にキスをされ、本来なら嫌悪感を抱くところ。しかし、レイラは嫌では無かったのだ。それが何故だかわからず、困惑し、何度も考えたが答えが出なかった。 「その顔、たまらねぇな」 「!」 「「あぁぁぁああぁぁあーーー!!!!」」 顔を赤く染めたまま困った表情をするレイラが可愛くて、ランはまたも許可なく二度目のキスをした。今回もがっつり濃厚なそれに兄たちは発狂して掴みかかる。 「月光はないけど、またうちに来いよ」 ランは思った。月光の在処は分からないが、きっと月光が存在するなら、それは目の前のレイラのように美しく綺麗なんだろう。月は月だけでは輝かない。月を照らす太陽の存在が無くては。自ら輝くレイラ自身の方が、むしろ月を照らし、人々を照らす月光の正体なのではとさえ思った。 「レイラを手に入れるにはまずは俺達を納得させてからにしろ!」 「俺の、俺の可愛いレイラが・・・」 この国に国民公認のイチャイチャバカップルが誕生するまでのカウントダウンがスタートした。

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