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騎麻、ちょっぴりセンチメンタル

俺は常磐騎麻。現在天羽学園の高等部の三年。少し前まで生徒会長をしていたが、それも一つ下の従兄弟であるレイラにその座を引き継ぎ引退した。受験も推薦で一足先に終わり、後は卒業までの時間をゆっくりと待つ日々。 しかし最近の俺には悩みがある。それは、 「・・・暇だな」 そう、やる事がないのだ。 勉強にプラスで学園の運営をすることになる生徒会の仕事は、なかなかに忙しかった。しかしそんな生活を初等部から送っていた俺にとっては、その忙しさこそが通常。元々世話焼きで何かと動き回ることが多い性格なこともあり、今の状態が暇で暇で仕方がない。 友人を誘って遊ぼうにも現在高三、周りは受験勉強の追い込みの真っ最中。幾ら彼らが優秀で勉強に余裕があるとはいえ、息抜き以上の遊びに誘うことは出来ない。かといって部屋で一人で時間を潰すにも限界がある。すでに気になっていた映画もドラマも観尽くした。 同学年が駄目なら後輩を、とも考えた。初等部からのエスカレーター式であるため学園内の生徒はほとんど顔見知りである。しかし、遊びに誘える程の仲の後輩となると思いつくのは数名。しかもそのうち2名は弟と従兄弟だ。そして残りの者もほとんどが生徒会関係という範囲の狭さ。 「そこで気付いちゃったんだよねぇ~、あれ?俺ってもしかして友達少ない?ってさぁ」 「はぁ・・・」 「全然少なくはないと思いますけど・・・」 まあ確かに友達自体は少なくはないだろう。しかしそれは同学年に対してで、後輩は極端に少ない。 「ぶっちゃけ俺ってなかなか人気者だったでしょ?俺的にはだらだら適当に会話出来る人間を求めてるのに、みんな変に気合い入っちゃっててさ~」 別にそれでもただのお喋りに付き合ってくれるだけ有難い。が、どうしても相手がキャッキャウフフとテンションが高いと俺もついみんなが憧れる会長としての顔をしてしまう。 「つまり俺は今、君達のように俺の話を課題の片手間に聞けるような相手を探してたわけよ」 そう言って目の前で課題のプリントに向かいつつ俺の話を聞いてくれている二人、要君と凌君に目を向ける。二人は数学の課題の真っ最中。次の授業の予習を兼ねた課題を出されたらしく、まだ習っていない内容に手こずっているようだ。 「あ、いやすみません!ちゃんと話は聞いてます!!ただちょっと提出が終わらなくて・・・」 「あ、いいのいいの適当に聞いてくれたら。あと、そこはこっちの公式使った方が簡単だよ」 「先輩、この問題なんですけど」 「それは先にxの値から出すと続きが解けるよ」 俺は思いつく数少ない素の状態で接することの出来る後輩を求めて2-Sの教室に来ていた。2-Sにはレイラが在籍していることもあって頻繁に教室を訪れていたので、顔を出しやすい。そして要君と凌君とは一緒に別荘へも行った仲だ。それって結構仲良しだよな? 「でも本当暇でさ、最近じゃ理事長と寮の管理人の玄さんが茶飲み友達だよ」 「生徒会には顔出してないんですか?レイラ君も弟さんも居るじゃないですか」 凌君の言う通り生徒会に行けば俺の可愛い可愛い弟と従兄弟がいる。他のメンバーも何年も一緒に生徒会を支えてきた仲間であり後輩だ。 しかし俺は今生徒会室へは出来るだけ行かないようにしている。いや、本当は行きたい。めちゃくちゃ通いつめたい。それでも我慢しているのは折角新しいメンバーで頑張っている生徒会の邪魔をしたくないから。そして、 「頑張ってる弟達の姿なんか近くで見たらお兄ちゃん余計に毎日生徒会行きたくなっちゃうじゃん?それで真斗に呆れた顔で“暇なの?”って言われたら悲しくない?」 いや、事実暇なんだけどさ。 「なんか、そのブラコン発言聞くと常磐の人間だなって感じるっすね」 「確かに!レイラ君達もすごいもんね!(兄×弟の互いに依存し合った関係とか美味しい!!いや、弟×兄ってのも捨てがたい!?いやいやでもでも弟を溺愛する兄ってのがやっぱ・・・!!)」 「(なんか凌君鼻息荒いな)まあうちの家って仲良いからね」 よくブラコンだとは言われるし自分でも自覚している。元々家族親戚一同仲がとても良いので俺だけじゃなく周りも似たようなものだが、周囲の人間から見るとかなり重症らしい。 「え、でも物心ついた時からあんな可愛いのが近くにいたら溺愛間違いないでしょ?」 「うち上にしか兄弟いないんで・・・」 「俺も一人っ子なんでなんとも」 「レイラで想像してみてよ。ミニサイズのレイラとか子供の俺から見てもめちゃくちゃ可愛かったよ」 二人は言われた通り想像してみたのか納得したように頷く。今でこそ育ちに育っているが、俺はあいつらがオムツをしている姿から知っているのだ。ま、レイラ達に至っては俺もまだオムツだったわけだが。 可愛い可愛いと周りに言われて育った俺も、三つ子を見た時にはその異次元の可愛さに赤ん坊ながらに大興奮だったらしい。そして暫くして風月と真斗が生まれてただでさえ可愛いのに、それが自分の妹と弟だと思うとテンションは最高潮まで上り詰めた。 「毎日のように連れ回して周りに自慢して回ってたなぁ~」 懐かしい。よちよち歩きの風月とまだ歩けない真斗を抱っこで連れ回して毎日のように近所に自慢しに行っていた。 その後も課題の手伝いをしつつ、だらだらと2-Sで過ごしていると廊下の辺りがザワザワと騒がしくなってきた。 「あ!本当に騎麻いるじゃん」 「騎麻兄何してんの」 「レイラ!真斗!」 廊下からぴょこんとトーテムポールのように顔を出したのは先程まで話題に出ていたレイラと真斗。何故そんな可愛い登場の仕方をするのか。しかも下になっている真斗にレイラが覆い被さるように抱きついている。俺がすると絶対に嫌がるのにレイラだと許されるのがずるいぞ。 「見回りか?」 レイラが生徒会長になってから放課後の見回りが週に一度行われるようになった。見回りと言っても風紀委員のするそれとは違い、生徒たちの様子を知るためのもの。そして生徒会室にこもってられないレイラの息抜きでもある。 「そー。騎麻が2-Sで要達に絡んでるって聞いて見に来た」 「人聞きが悪いなぁ。絡んでるだけじゃなくて勉強も教えてるよ」 教室に入ってきた二人。真斗の頭をぐしゃぐしゃと撫でてみたら嫌そうに避けられた。この照れ屋さんめ。 「髪が崩れる」 「崩すのが楽しい」 睨まれた。ターゲットをレイラに変えると大人しく頭を差し出してくる。可愛い。真斗はお兄ちゃんに甘えるのが恥ずかしいお年頃のようだから仕方ない。お兄ちゃんはいつでも待ってるよ。 「騎麻、時間あるなら生徒会来てよ。この後みんなでゲームするんだけど一人足りないんだよ」 「・・・レイラ?ちなみに仕事は?」 「ちゃんと終わってるよ!」 なら問題ない。手伝っていた課題も残り少なく、あとは応用ばかりなので俺がいなくても大丈夫だろう。折角のお誘いだ、勿論喜んで行くとも。 要君達に別れを告げてレイラと真斗と共に通い慣れた生徒会室への道を行く。それがなんだかとても懐かしい気がした。 「・・・何にやにやしてんの」 「んー?なんか生徒会室行くの久々で嬉しいなぁって」 「え~何それ変なの!ならいつでも遊びに来ればいいのに!」 そんな話をしていたらいつの間にか生徒会室に到着していた。そして何だか中が騒がしい。 ガチャ 「あ!騎麻君お久しぶりです!!聞いて下さいよぉ~!!」 「あ、こら鷹君!!騎麻先輩お久しぶりです!!鷹君の話はスルーしてください!!」 扉を開けると同時に鷹がデカい体で飛びついてきた。そしてそれを引き剥がそうと後ろから引っ張るケイ。まあ外にも声が漏れていたからわかっていたが騒いでいたのは鷹だったようだ。俺達三年が引退した後も相変わらず鷹のバカさ加減に変化は無いようで逆に安心。ケイの気苦労は増えたのかもしれないが。頑張れケイ。 目の前で騒いでいる二人を見ていると、ちょんちょんっとシャツの袖を引かれた。 「渚!」 「騎麻先輩、久しぶり」 「久しぶり、元気にしてた?」 「ん」 こちらも変わった様子のない生徒会のマスコット的存在渚。相変わらず表情の変化は少ないが、中学からの付き合いである俺にはわかるぞ。今の渚はとても機嫌が良い。しかもそれは多分俺に会えたから。 「・・・俺ずっとここにいたいな」 「え、騎麻卒業したくないの?留年して俺ともう一年高校生やっちゃう?」 「なんなら真斗が卒業するまで居たいな」 「いや卒業しなよ」 実際にそんな事は出来ないけど卒業までの間、生徒会室には我慢せず遊びに来てしまおうかな。勿論仕事の邪魔にならない程度に。 もうすぐ見れなくなる光景を少しでも多く味わっていたい、そう思った。

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