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それは流石に

モデルの仕事を本格的に始めて3年。有難いことに仕事はどんどん増え、今ではモデルだけで無く俳優業やアーティストのような仕事まである。一度目にすれば忘れることの出来ないその見た目と、本人の多彩な才能にどの業界からも注目され続ける存在だ。 毎日忙しいながらも無理のない程度に仕事自体はセーブして入れてもらっている。なので体力の無いレイラもほとんど体調を崩す事なくやってこれた。 相変わらず恋人である嵐太郎とはラブラブであるため、毎日同棲中のマイホームに帰り2人の時間を楽しんでいる。 周囲からは勿論、自身でも充実した生活を送っているという自覚があった。 それなのに、いつものようにソファーに転がり恋人の膝枕でダラけているレイラの顔は何だか不満気である。 「どうしたそんな顔して。仕事でヘマでもしたか?」 「してないよ。むしろ絶好調」 「ならどうしたんだよ」 ふわふわの白に近い髪の毛を撫でながら嵐太郎が訊ねる。高校を卒業しイギリスへと戻り仕事も本格的になってからというもの、愚痴を零すこともたまにはあるが基本的には楽しそうな姿 を見せている。そんなレイラのふくれた顔を心配しつつも、そのふくれた頬っぺが可愛いな、などと内心思っていることは内緒である。 「⋯今日さ、うちに新人が入ったんだけど」 「最近多いな」 「新しいジャンル拡大予定だから」 ここ数ヶ月でレイラの所属しているTOKIWAの事務所に、続け様に新人が入ってきている。レイラも事務所に入り3年目、しかしそれ以前も母親のカレンのファッションブランドであるT.KRNでモデル業をしていたレイラは、新人の世話係も少しだが任されていた。 「面倒な奴でも入ったのか?」 「んーん、全然いい子」 事務所へとスカウトされてくる新人は大体15歳から18歳くらいの若いものが多い。そしてレイラは春に誕生日を迎え、現在21歳。三つ子とはいえ末っ子で弟妹に多少の憧れがあったレイラは、昔から年下を構うのも好きだった。その為新人の世話係も初めは楽しんでいたレイラだが、人数が増えてくるにつれ思うことがあった。 「⋯俺、世話係向いてない」 「そんなことないだろ」 「だって⋯ ⋯俺、世話するよりもされてたい」 「ぶはっ」 深刻そうな顔をしていたレイラのまさかの発言に嵐太郎は思わず吹き出した。その反応にレイラ自身も自分がおかしな事を言っている自覚はあった為、文句こそ言わないが頬っぺは先程よりも膨らんでいる。 「おまっ⋯それで膨れてたのかよ、ふはっ」 「笑いすぎ!!だってみんな年下なんだよ!?しかもモデルも初めての子ばっか!俺のことレイラさんレイラさんって言って子犬みたいに着いてくるの!!」 「子犬好きだろ」 「好きだしみんな可愛いよ!!」 でもやっぱり俺は人の面倒みるよりみてもらう方がいいのー!!と叫ぶレイラに嵐太郎の笑いは止まらない。 自他ともに認める完全末っ子気質のレイラの周りには、気づけば面倒見のいい人間が集まってくる。知らぬ知らぬうちに面倒を見られることが当たり前になり、そして慣れきってしまっていたのだ。 「面倒みるよりみられたい、世話するよりされたい、甘えられるより甘えたい〜〜〜っ」 新人達は皆いい子だし、年下は可愛い。自分を慕って着いてきてくれるのも微笑ましいし、色んなことを教えてあげたい気持ちは強い。 「でもそれとこれは別。よしよし可愛がられて甘やかされたい。寝て食べて仕事以外のことは全部やってほしい」 「赤ちゃんかよ」 「トイレは自分で行けるから赤ちゃんよりは自立してる」 それを自立と言っていいのかはわからない。だがレイラの顔は真剣であった。 その後も駄々っ子のように嵐太郎の膝に転がりイヤイヤ言うレイラを宥め、好物の甘いカフェオレをいれてやり、ダラダラと眠くなるまでレイラを甘やかした。 愚痴を零したことと大好きな恋人に甘やかされ満足したレイラは、眠る頃にはニコニコと満足気な顔になっていた。 「やっぱ最初にちょっとお兄さんなキャラで張り切ったのが良くなかったなー」 「なんでキャラつくってんだよ」 「そりゃ年下にカッコつけたかったからでしょ」 元々レイラの活躍ぶりは知れ渡っているところなのでかっこつける必要は無かったが、世話係を任されたことで気合いを入れすぎてしまったのだ。結果、それが今の現状に繋がっているかと思うと失敗したなーと後悔がやってくる。 「まあ、慣れてくればみんな適当にやってくれるだろ」 「それまで我慢かぁ〜」 元々仕事の忙しいレイラは世話係と言いつつ新人に付きっきりというわけでもない。たまにしか会わないからこそ、会えば羨望の眼差しを向けられ、レイラもイメージを壊さぬようにきちんとした先輩としての姿を見せているのだが。 レイラが家で愚痴を零してから数日は特に変わりなく、レイラも自身の仕事が忙しかった事もあり普段通りの日々を過ごしていた。 が、嵐太郎が帰宅するとまたもや不服そうな、というよりも落ち込んでいるのか元気のないレイラの姿があった。 「今日はどうした?またお世話されたくなったか?」 「いや、それは解決したみたい」 「?」 今日は久々に新人達への世話係として事務所に顔を出すと言っていた。が、どうやらまた新たな問題が発生したようだ。 「今日さ、近くで撮影してたから見学がてらみんなをスタジオに連れていったのね」 まだ仕事を受けられるレベルではない新人達はレッスンの日々を送っている。ただレッスンばかりも飽きてしまうだろうと、丁度近くで撮影をしていることを知ったレイラは皆を連れてスタジオへと顔を出したらしい。 「結果から言うと、スタジオでスタッフに世話をされまくる俺の姿に世話係という威厳は消し飛んだ」 「飛んだのか」 「そう。もう完全に」 それが良い事なのかどうかはわからないが、世話されたいと言っていたレイラとしては望んでいた形だろうか。しかしその微妙な顔からすると望んでいたようにはならなかったのだろうか。 「そんでみんな驚くべき適応力で俺の世話をしてくれるようになった」 「すげぇな」 数日前に世話されたいと散々言っていたレイラからすると、やはりそれは望んでいたことではある。レッスンの時間などは変わらず羨望の眼差しを向けられてはいるが、その他の時間では保護者のように世話を焼いてくれるらしい。 「5歳とか歳下の子に世話をされるのが情けないなんて気持ちは5分で捨てた」 「お前の適応力もすげぇわ」 「筋金入りの末っ子気質なので」 長年保護者属性の人間に甘やかされて生きていたレイラにとって、年の差はそこまで気にするところでは無い。 だが、そうなると何故微妙な顔をしているのかが気になるところである。 「新しく入った子の中で最年少が13歳なんだけどさ、その子が『 俺、家で弟の世話よくしてるで!』って」 「13歳のやつの弟と同じ扱いかよ」 「この前誕生日でプレゼントあげた。今月で6歳だって」 「・・・それは微妙な顔になるな」 いくら年齢を気にしないレイラとしても6歳と同じ扱いは若干ショックだったらしい。

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