26 / 30
成長期
「見て見て!170越えた!」
「この服の丈足りないな」
「ジャンプしなくても棚の上届くー!」
周囲よりも遅ればせながら、常磐家の三つ子は成長期の真っ只中である。数ヶ月前までは160cmにやっと到達したことに喜んでいたというのに、そこからあれよあれよという間に10cmも身長が伸びた。
「急に来たな。まだまだ小せぇけど」
「私もそろそろ抜かれちゃうわね〜どこまで伸びるかしら」
両親共に平均身長を越えている為、いつかは伸びるだろうと思っていたがその時が訪れたようだ。同年代の中で小柄だったことをあまり気にはしていなかったが、やはり成長はとても嬉しい。
190cmを越える十六弥とはまだまだ差が大きいが、カレンの身長を越すのは時間の問題だろう。
「最近寝てても関節が痛い」
「なんかミシッて音とかするよね・・・」
「身長伸びてるのに体重変わってないから、更に痩せた気がするんだけど〜っ」
元々痩せ型な上に急に身長が伸び、まだまだ追いついていない体重のせいで見た目のヒョロさが増した。食べても食べても太らない上に、今は栄養のほとんどが身長へと持っていかれているようだ。
「十六弥君も成長期はこんな感じだった?」
「俺は成長期とか関係なくずっとデカかったからな。関節痛とかも無かったわ」
現在進行形で全身ベッキベキの三つ子達からすると羨ましい限りである。親子といってもそこは違うようだ。
サイズアウトした服の代わりをカレンはルンルンで選ぶ。身長が伸び、今までと違った系統も似合いそうだと、三つ子に着せたい新しいデザインが次々に浮かんでいるらしい。
「ん〜レディースのモデルもギリギリのとこかしら?筋肉ついて肩幅とかも今より広くなると流石に無理ねぇ・・・」
「え!じゃあメンズ!?やったー!」
今までは身長や薄い体型からレディースやキッズのモデルがほとんどだったが、このままなら次の撮影からはメンズのモデルだろう。
そのカレンの言葉を聞き、テンションの上がるレイラ。将来モデルを目標としている身としては、新たなステージへのステップアップは夢への第一歩と言える。
「俺が横に並んでやるよ。そしたらあと5年はレディースでやってけるんじゃねぇの?」
「なんで!?メンズがやりたいって話してるんだけど!!!?」
確かに隣に十六弥が並べば、線の細さも強調されメンズよりもレディースの方がしっくり来るだろう。しかしそれはレイラの望むところではない。プンプン怒るレイラの姿を十六弥はニヤニヤとしながら見下ろす。
多少身長が伸びたとしても生まれてからずっと可愛い可愛いと言われ育ったので、言動に可愛さが溢れている。それがまた十六弥のニヤニヤを強くする。
「あ!今日タコス来る日じゃん!」
「うわほんとだ!十六弥君達も食べるよね?」
「おう、これでまとめて買ってこい」
月に一度だけ家の近くに来るキッチンカーの事を思い出した三つ子は、十六弥から財布を受け取り玄関へと急ぐ。本場のメキシコ人がつくるタコスは絶品で毎月の楽しみである。昼時はかなり混む為、三つ子は少しでも急ごうと庭を突っ切り近道をしようとした・・・が、
ガンッ ゴッ ドスッ
「っ!!ブハハハッ!!!」
「っふ、今のは、、痛いわね、ふふっ」
近道のため塀を乗り越えて外に出ようとした三つ子が、三人揃って塀の手前にある植木の枝に顔面を強打した。
普段あまり通らないそこは、今までは屈むことなく通れる高さであった。が、それも数ヶ月前の話。久々に通ってみると枝は丁度三つ子の額の高さになっていたのだ。
なんの疑いもなく全力で枝に突っ込んでいく姿を、窓越しにバッチリ目撃していた十六弥とカレンは笑いが止まらない。
「なんで三人ともぶつかるんだよ!一人ぶつかったら気づけよ!!」
「なんかもう、吸い込まれていくようだったわね、ふふ」
あまりに勢いよくぶつかったため、衝撃も凄かったのか三人は揃って額を押さえその場に蹲っている。なかなか立ち上がらないその姿に、笑っていた十六弥とカレンも心配し始めた。
「あ?泣いてんのか?怪我でもしたか?」
「え、大変・・・あ、違うわ見て!笑ってる!」
小刻みに震える背中に怪我でもしたのかと心配すれば、どうやら三人が揃って枝に激突したその状況が本人達もおかしかったらしく爆笑していた。痛みと面白さとで変にツボに入ったのかなかなか立ち上がれずにいる。
その後、やっと笑いがおさまったところで、次は慎重に枝をくぐって塀を飛び越えタコスを買いに行った三つ子。揃って赤いおでこをしていることを、陽気な店主に突っ込まれながら無事にタコスをゲットし帰っていった。
それからしばらくの間は度々距離感を見誤り頭をぶつける三つ子の姿が目撃された。
ともだちにシェアしよう!