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自分時間

「嵐はさ、一人になりたい時とかないの?」 騎麻の急な問いにソファーで寛いでいた嵐太郎とレイラは同時に視線を向ける。二人が同室になって半年、私室を潰し寝室にしている二人は寮にいる間ほとんど一人になることが無い。 「え、待って何その答えによっては誰も幸せにならない質問」 「いやふと気になって、え、ごめん泣かないでレイラ」 「まだ泣いてない」 生まれた時から常に三つ子で行動をするのが当たり前だったレイラにとって、誰かが傍にいるのは当たり前過ぎて、一人になりたいと考えたことは思い出せる範囲では一度も無かった。だが、元々個人で行動することも多々あった嵐太郎を知っている騎麻は、ふと気になった疑問を口にしてしまったのだ。 授業が終わってから部活もしていない二人は比較的すぐに自室に帰ってくる。そしてそこから翌日学校に行くまでをほとんど同じ空間で過ごし、休日もほぼ全て二人一緒に行動している。実質、一人になるのはトイレや風呂の時くらいだろう。なんならこの二人、毎日ではなくとも風呂さえも一緒に入っているはずだ。 「まあ、初め同室者が来るって聞いた時は正直面倒だなと思ったな」 嵐太郎は人数の関係で一人部屋になっていた為、なんの気兼ねも無く自由に過ごせる時間を謳歌していたのは間違いない。どんなタイプの人間が来るかもわからない状況では、確かに初めは面倒くささを感じていた。 「え、やだ嵐ちゃん俺泣くよ」 「いや本当ごめん俺が切腹する」 「泣くな切腹もいらん。誰が来るかわからなかった時のことだろ」 本当に涙目になりこちらを見上げてくるレイラと、珍しく慌てた様子の騎麻に嵐太郎は苦笑する。 「まあ実際レイラ以外の奴ならここまで一緒に居ることもないだろ」 もし同室になったのが他の人間なら、気が合う相手だったとしても自室で過ごす時間は多いだろうし、まず一緒に寝ることなんて有り得ない。 それが相手がレイラになった途端、常に傍に居ても嫌ではないし、むしろころころ変わる表情を眺めていたい。柔らかな髪を撫でていたいと思うのだから、全ては惚れた弱味だろうか。 「自分でも不思議なくらいには一緒に居ることが苦じゃない。だから一人になりたいと思うこともないな」 「!嵐ちゃん大好き!!!」 嵐太郎の言葉を聞いてレイラは嬉しそうに抱きつき、それを受け止めた嵐太郎も甘い表情で頭を優しく撫でる。 そんな二人の様子に騎麻は内心ドクドクと暴れ回っていた胸をそっと撫で下ろした。自らがした質問であるが、一歩間違えればとんでもない地雷になりかねなかった。普段あまり問題を引き起こすタイプではない為、今回のような危ない空気に実は耐性の無い騎麻は寿命の縮む思いをした。 「てかさ、そんなこと聞くってことは騎麻は一人になりたいことがあるの?」 「んー、一人になりたいっていうより、一人の時間は欲しいかな?周りを気にせずただただ自分の為だけに使う時間って、リラックス出来てストレス発散にもなるし」 「まあな」 騎麻と同意するように頷く嵐太郎の二人にレイラは首を傾げる。言いたいことはわかる。レイラ自身も一人で自分の好きなことに没頭する時間は嫌いではない。ただ、必ずしも一人になる必要はない。周りに誰かがいたとしても気にならないし、気にしないだろう。 「レイラは一人になるって経験がまず圧倒的に少ないからな」 「まあね。でも俺も流石に誰とでもずっと一緒にいたいってわけじゃないから、やっぱり嵐ちゃんの存在が心地良いからだと思う」 声のトーンや話すスピード、匂い、体温、触れる力加減に無言の時の空気感まで、全てが心地良い。それは三つ子の兄達や両親、騎麻を含めた常磐の人間達に共通することでもある。 「つまりは遺伝子レベルで嵐ちゃん大好き」 「そりゃ光栄だな」

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