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第4話 紘太、念願の就職編

  ✳︎✳︎✳︎  新入社員として第一歩を踏み出す今日。  俺は晴れ晴れとした誇らしい気持ちと、ガチガチに固まって緊張した気持ちの狭間で、完全にカオスとなっていて。顔に力が入っているのを感じた。そんな俺に向けられる視線。俺はたまらず、ため息をつく。 「紘太。なんだよ、その顔。イケメンが台無しなんだけど」  洗面所の鏡の前で、中腰の姿勢をしている俺に、恵介がイタズラっ子のように笑った。 「……しょうがねぇだろ。元々チキンなんだよ、俺は」 「ちょっと、動くなって! 今よりイケメンにしてんだからさぁ」  「あぁ、もう!」と母親みたいな声を出した恵介が、いい香りのヘアワックスを手のひらで広げる。 慣れた手つきで、恵介は俺の髪をフワッといじった。  いや……俺。悪癖なんて持ってないぞ!? 持ってないけど、その手つき……。ヤバイくらい、ムラムラする。 「恵介、こんな時になんなんだけどさ」 「なんだよ、紘太」 「緊張してんだ、俺」 「見りゃ分かるよ」 「だから」 「だから?」 「キスしたい」 「はぁ!? 何言ってんだよ、おまえ!!」 「恵介、お願い!」 「今日から初出勤なんだろうが、おまえはっ!! どうせキスだけじゃ終わらないくせに、何をヌかしてんだよ!」 「お願い!! キスしたら落ち着くんだよ、俺」  玉ねぎの微塵切りを想像して、涙腺を刺激すると。自然と目に涙が潤って。今にも泣きそうに、そしてそれを我慢しているように眉に力を入れる。俺……俳優慣れるんじゃね? もちろん、恵介限定だけど。 「……わかったよ、紘太」 「恵介……」 「わかったから……そんな顔すんなよ。少し、少しだからな」  恵介は手を洗いながら、鏡越しにぶつかった視線を逸らして恥ずかしそうに言った。  恵介の弱点。俺がこんな顔をしたら、一発で言うことを聞く。わかってんだよ? 恵介のことなら、なんでも。隅から隅まで。外側から内面まで。全部……全部、知ってんだよ? 俺は。  身長は俺より少し低いくらいなのに、その体は驚くほど華奢で。俺の腕が二周するんじゃないかってくらい、しなやかで細いその腰に手を回して。俺は恵介の体を引き寄せて唇を重ねる。 「…………ん、は…….げし……」  吐息ともに漏れる恵介の声が、ヤバすぎるほど俺を刺激して……。就職1日目の朝にして、俺の前がずいぶん派手に起き上がってしまった。 「ちょ………やめ……やめろって!!」  今な今まで、キスだけでとろけた顔と顔をしていた恵介が。一気に現実に引き戻されかのように、俺の体を突き放す。 「初日で!! 初日で、遅刻とか!! かなりマズイからっ!!」 「やっぱ、そうだよな?」 「やっぱ、って……何落ち着いてんだよ!! つーか、おまえの下!! 早くそっちを落ち着かせろって!!」  顔を真っ赤にして、俺の状態に慌てふためく恵介が余りにもかわいくて……。俺は速攻で恵介を抱きしめたくなった。まぁ、それ以上すると。大変なことになるって、わかってるけどさ。 「じゃあ、帰ったら……ご褒美くれよ、恵介」 「しょうがねぇな! 帰ったら……帰ったらだかんな」  照れながらも強気にデレる恵介に。俺は不安と緊張を吹っ飛ばすほど、あらゆる意味で元気になったんだ。  大学に復学して、俺は猛烈に頑張った。本当に頑張って。頑張った結果、一年半で単位を取り終えて。  今春。俺は無事、就職できたんだ。恵介と同じ会社に。  よく、就職できたな、って? だって、言ったじゃん! 俺、猛烈に頑張ったって。  恵介と同じ会社に入りたくて、エントリーシートも研究に研究を重ねて書いた。人見知りな性格を抹殺して質問もたくさんしたんだよ、俺は。そして、その苦労が報われて。俺は無事、恵介と同じ会社に就職した。  ただ一つ。不満なことと言えば、同じ部署じゃなかったってこと。  恵介は営業二課。俺は総務課。  できれば、一緒がよかったのに……。しかも、俺が配属された総務課って所が、やたらと女子の密度が高くて。人見知りな俺の性格がゾンビみたいに復活した。さらには、部屋の空気がなんだかピンクに見えてきて。呼吸すら、儘ならない。 「京田」  そのキラキラ、ふわふわした部屋の中で、男特有の野太い声が聞こえて。ホッとしたと同時に、その部屋の雰囲気とは異なる違和感に、俺は勢いよく声のする方へ振り返った。 「京田……だろ?」 「あ、はい……はじめまして。京田紘太です。よろしくお願いします」  目の前に立つ、細身のスーツをスッキリと着こなした若い男性。俺はすぐさま頭を下げる。挨拶をした俺の声は情け無いくらい震えていて。緊張でガタガタいう歯の音が聞こえてしまうんじゃないか、ってくらいドキドキした。粗相が……粗相があっては、いけない。初日で粗相はマズイだろ、俺! しっかりしろ、俺! 「こちらこそよろしく。俺、内村匠。今春、営業二課から転属になったんだよなぁ。何もわからないのは京田と一緒だから……まぁ、あてにならないけどさ。仲良くしようぜ」  内村と名乗った男は、そう言って右手を差し出した。 「……ありがとうございます、内村先輩」 「おまえさ、ひょっとして」 「はい?」 「恵介の、弟?」 「はい」 「……おまえかぁ……ま、よろしく」  おまえかぁ、って何!? なんだ!? 内村の、なんか含みのある発言が、なんか癪に触って。一瞬で緊張も不安も。ガタガタなる歯の音も吹っ飛んだ。  ……ぜってぇ。絶対に今日は。家に帰ったら、恵介を問い詰めなきゃって思って。俺は右手の拳を強く、強く握りしめた。  従業員の給料計算や旅費、福利厚生に係る契約なんかの。細々とした仕事が総務課に配属された俺の仕事だ。含みのある発言と同じく含みのある笑顔を浮かべた内村は、僕の真向かいの席に座っていて。さっきまでの余裕綽々な表情とは打って変わり、難しい顔をしている。……慣れない仕事って、本当だったんだな。 「雇用保険料の掛け率とか、厚生年金の掛け率とか。掛け率ばっかで意味わかんねぇよ、マジで」  内村は、頭をわしゃわしゃかきながら独り言を呟いた。そんな内村をみて、ハッとした俺は慌ててパソコンの画面に目を移す。  かくいう俺も。目の前のパソコンに表示されている数字の羅列する意味が、全くわからなくて。隣の席の先輩に聞きまくっていた。  ……働くって、簡単じゃないんだな。やっぱり。こうして考えると、恵介の持つポテンシャルの高さが、非常に羨ましく感じる。 「京田くんって、二課の京田さんの弟さんなんでしょ?」  親切かつ、意外と丁寧に仕事を教えてくれる、この隣の席の先輩は、いい匂いがするソコソコかわいい女性の先輩で。にっこりと笑って、俺にベタな兄弟ネタをふってきた。まぁ、いくらかわいいとはいえ、恵介とは比べ物にならないんだけどさ。  いかん、いかん……仕事、仕事。 「はい。似てないんで、兄弟って気づかない人が多いんです」  動揺を悟られないように、俺は極力、笑顔で答えた。 「お兄さんは綺麗な顔してるもんねぇ。そういう京田くんは正統派なイケメンだね」 「そうですか? ありがとうございます」  たとえお世辞であっても。俺は他人に褒められるのが、結構好きだ。認められてるって気がするし。怒られるよりも、ずっと幸せな気分になれる。やる気だって湧いてくる。 「お昼、いつもみんなで行ってるんだけど、京田くんもどう?」 「あ、俺、弁当もってきてるんで」  ガタッとーー。  隣の先輩の椅子が音を立てて、フロアの女子の視線が一斉に俺に集中した。  お、俺、なんか変なこと言ったか……? 「か、彼女の手作り?」  先輩のかわいい笑顔は妙にひきつっている。俺と先輩の一挙手一投足を、フロアの女子が固唾を飲んで見守っている、みたいな。変な構図が出来上がっいて、俺は再び緊張感に苛まれた。答えを……答えを、早く言わなきゃ!! 「俺の……手作りなんです」 「え?」 先輩の「え?」と言う声と、フロアの女子の「え?」と呟いた声が、サラウンドみたいに反響した。 「俺、家事、得意なんで…………」 「うそ?」  先輩の目が〝彼女だろ? 絶対、彼女が作ったんだろ? 正直に言わねぇと、今後のお前の身の振り方が変わってくるんだぞ? オラ?〟的なオーラを纏っていて……。さっきまで、ニコニコかわいかった先輩と同一人物とは思えないくらい、殺気立っている。コワイ……めっちゃ、コワイ。 「そういえば恵介もよく弟が作った弁当持ってきてたよなぁ」  何というタイミングで……! 内村がボソッ呟いた。ま、まさか!! 俺に……助け船を出してくれのか? 「しかも卵焼き一つとっても、出汁入りだったり、ほうれん草が入ってたり。毎日違っておいしそうな弁当食っててさぁ。そこら辺の女子の弁当よりこってて、俺、恵介が羨ましかったもん。あれ、京田が作ってたんだろ?」 「はい」 「そ、そうなんだぁ」  内村の一言で、先輩の殺気が一瞬で消えさった。よ、よかった……。 「京田、俺も今日弁当だし、一緒に食おうぜ」 「あ、ありがとうございます。内村先輩」  フロアの女子全員の視線から解放されて、俺はフッと息をはいた。隣の先輩も元のソコソコかわいい先輩に戻って。 「弁当男子かぁ、すごいなぁ。私も弁当作ってこようかなぁ」  なんて独り言を言いながら、先輩の業務にさりげなく戻っていく。男性が多いところもそれなりに大変だけどさ。女性が多いところもそれなりに大変だ……って。出勤初日で重くのしかかってきたんだ。 「さっきは、ありがとうございました。……あのコレ……どうぞ」  さっき助けてもらったお礼とお世話になります、という意味を込めて。俺は内村に缶コーヒーを渡した。 「気ィ使わなくてよかったのに」 「いや、本当、ああいうの慣れてなくって。ありがとうございました」 「いやいや。京田がイケメンすぎてみんな色めき立ってんだよ。あと一週間もすりゃ、ビックリするくらい静かになるって」 「……そんなもん、なんですかね」  俺があげた缶コーヒーを口に含みながら、内村はマジマジと俺を見る。 「しかし、本当カッコいいな、おまえ」 「……あ、ありがとうございます」 「恵介が惚れるわけだな」  ん? んーっ!!   内村の不意をつく発言に、俺は飲んでいたお茶をマーライオンみたいに吹き上げそうになった。 「な、な、ななな」 「俺さぁ、前、恵介に告ったんだよね」 「!?」  さらに内村の予想外の言葉が、腹に深く食い込むようなボディをくらったみたいな衝撃で。その衝撃でお茶が鼻に入ってしまった。マジで、悶え苦しみそうになるくらい、痛い……。 「ま、あっさりフラれたけど」 「……え"っ?!」 「……おまえが大事で、おまえが大好きで、おまえのことしか考えられないってよ」 「……」 「でも、俺。恵介のこと、まだ諦めてないから」 「……内村先輩」  内村は口角をキュッあげて、俺に笑いかけた。 「仕事は仕事、プライベートは別だからさ。女の園の総務課で男同士、仲良くしようぜ」  あ、この人って。めちゃめちゃ面倒見がいい人なんだ。そして、裏表がない正直な人。  めっちゃ、強敵だ!! こんな人が恵介のそばにいたなんて……。こんな強敵と、俺はいつのまにかライバルになっていたことに驚愕する。  うかうか……してらんないな、全く。  恵介は、どんだけ〝男〟にモテるんだよ。 「なぁ、京田。苗字で呼ぶのもなんだから、紘太って呼んでいいか?」 「あ、はい。もちろんです」 「俺さ、〝巻き返し〟がスゲーんだぜ? 紘太」 「俺も……です」  前向きな内村の言葉に、なんだか腹が据わったっていうか。負けてらんない、って思ったんだ。 「土壇場になってからの底力がすごいんですよ? 内村先輩」 「そうこなくっちゃ!」  お互いの顔を近づけて、自信ありげに笑いあう。出勤初日で、重くのしかかっていた色んなモノが、その瞬間、ふっとどこかに消え去ってさ。  俺、やっていけるかもって、思ったんだ。そして、恵介を……俺の嫁を守んなきゃって。俺がしっかりしなきゃって心に強く誓った。 「内村……いいヤツ……だったろ……?」  出勤初日。ご褒美という名目で、俺は恵介と肌を重ねていた。俺の体の下で、火照った顔をした俺の嫁が、俺の指に感じながら言った。  こんな時に人の話? 俺のことが心配なのは分かるけど。こんな時に言わなくてもいいんじゃね? そんな恵介に俺は、意地悪したくなって仕方がない。 「……うん。すごく、いい人」 「……だろ? こ、た……指、増やす……な」 「恵介」 「……ん」 「告られたんだって? 内村先輩に」 「なっ!! 内村……が、言った…のか?」 「ほかに誰が言うんだよ」 「……だよな」 「俺さ……負けてらんねぇって、思った」 「……紘太」  恵介は少し眉をひそめて、俺の首に両腕を回す。 「まさか、あんな強敵がライバルだなんて思わなかったからさ……」 「紘太……なんでも、ないから……内村とは……なんでも」 「俺、恵介がいつまでも俺に惚れてくれるように、めっちゃ頑張るから」 「……紘太」 「頑張る、俺。頑張るから、見てて。恵介」 「うん……見てる。紘太のコト……ずっと見てる……」  首に回した細い腕で、俺の体を引き寄せた恵介は。俺にゆっくりキスをして、いつもより激しく舌を絡ませてきた。いつにもなく、色っぽい顔して…最高じゃん!! 「恵介……入れて、いい?」 「ん……紘太……入れて……」  俺は恵介の足を肩にかけて、その中にゆっくりと挿れる。瞬間、恵介の顔が一気にトロけだした。 「あ……やぁ…こ、う……た」 「どうしてほしい?」 「……う、ごい……てぇ」  その恵介の声とか、その恵介の表情とかさ。全部俺のものだ。誰にも渡さないっ!! 仕事もプライベートも……。そりゃ、ひきこもるくらいだから、すぐ、凹みやすいけど。そんなこと言ってられない!! 俺は、全力で頑張んなきゃなんない。  よーしっ!! やってる!!   気合いが、体と連動してしまって。ついつい激しく強く体を動かす俺の下で、恵介が体を逸らして叫んだ。 「んぁっ!! ちょっ……やぁ……らぁ!!」 「あ、ごめん……つい、力がはいっちゃった……」  不可抗力とはいえ、恵介の奥深くまで突き上げすぎて……。恵介は華奢な体をヒクつかせて、白目をむいていた。  あぁ……ごめん、恵介。 「紘太、おまえのお兄さんって、めっちゃ美人だなぁ」  営業二課に配属になった同期の大原が、藪から棒にとんでもない発言をしたから。俺はかなり動揺して、もっていたビールのジョッキを落っことしそうになった。  就職してちょうど一カ月。ゴールデンウィーク前に、同期で集まろうって話になった。  みんな仕事も慣れて、仕事の愚痴とか人間関係の軋轢とか。お酒が入って少し気が大きくなって、同期にしか言えない事を口々言っていた。  そんな中の、信じられないこの台詞。恵介は相変わらず、男を引き寄せるフェロモンを撒き散らしているようだ……。 「オレの隣の席でさ、お兄さんについて回って仕事をしてるんだけど。見れば見るほど、綺麗っちゅーか何ちゅーか。あの色素の薄い大きな目でジッと見られたら、ドキッとするっちゅーか。本当、紘太と全然似てねーよな?」  酒が入って饒舌に喋る大原に。 「……まぁ、それはよく言われるよ。似てないってさ」  俺は複雑な心境で、返事をした。 「だよなぁ。オレ、男をとか全く興味ないんだけど、お兄さんならいいかな? って思っちゃ……ちょっと、紘太。そんな怖い顔すんなよ」 「え?!」  大原に指摘されて、俺はハッとした。そう言えば、眉間が強張って硬直している。無意識に、大原を睨んでいたらしい、俺は。ヤバいヤバい、平静を保て!! 無になれ、俺!! 「か、仮にも先輩なんだから……。そんなことしねぇよ。そういう願望の話だよ、話」 「……願望、あんのか?大原」 「……か、仮の話だろ……」  酒が絡んだ席とはいえ。大原の不用意な発言になんだか感情が抑えきれずに。大原と俺の間に気まずい空気が流れた。  このままじゃ、イケナイ。イケナイぞ、俺。 「ご、ごめん、大原」 「お、おう」 「恵介は……結構隙だらけだからさ、今までも色々前科があって、心配なんだよ」 「い、いいって。オレもつい酒が入って気が大きくなっちゃったからさ。悪かったな、紘太」 「いやいや、俺こそ……」 「オレがそんなこと言ってたって、お兄さんに言わないでくれよ~」 「あぁ、仕事しにくくなるしな」 「そう言うこと」  ……そんな、こと。会社の後輩が恵介にムラムラしてるって。  言えるわけないだろーっ!! って、叫びたい気持ちを抑えつつ。イライラとと早く帰りたい欲求をごまかすように、俺は手にしていたビールを一気飲みしてしまった。 「こう……た、なんか……はげし……」  俺は恵介をバックで突いてて。肩越しに俺を見た恵介の顔が、色っぽすぎるから……。また、抑えきれずに恵介の腰をグッと掴んで、強くその中をかき乱す。 酒が入ってるからか。大原のせいで生じたイライラが、ムラムラにかわったせいか。恵介に対する欲求が湧き上がって、歯止めがきかない。今日は、今日は……止まんないぞ、俺。 「っ! ひぁっ!!」  つい入れたまま、強引に恵介をひっくり返して正常位にした。恵介が瞳を潤ませて、驚いた顔をする。 手首を掴んで、恵介をベッドに貼り付けると、また恵介の中を奥へと突き上げた。 「やぁ……こ、うた!! んぁっ!!」 「恵介、好きだ」 「ぼく……も……すき……だからぁ!!」  その悲鳴に近い恵介の声でハッとなって……。  ヤバイ……また、やっちまうかも!! 嫉妬に、怒りに狂って。恵介の声に頭がスッと冷たくなる。このままだと、本当に恵介を壊してしまうかも、と我に返った。  恵介の白くて細いお腹や太もも、白く汚れていて。俺が一心不乱に突きまくっている間に、恵介は後ろだけで何回もイっちゃていたらしい。俺がフロー状態だったから、恵介はそれにずっと耐えていて。そんな恵介を思いやることができなかった俺は、思わず、恵介を抱き上げた。 「ごめん!! 恵介っ!! 痛かったか?!」 「……ううん、だいじょ……ぶ」  呼吸を乱して苦しそうなのに。恵介は俺の頰に手を添えて、にっこり笑う。 「紘太……おまえ……まだ、イッてない……だろ?……僕が、シてやるよ」 「い! いいって!! 自分でするからっ!!」 「遠慮……すんな、って」  恵介が、まだギンギンになってる俺のを。片手でイジりながら上目使いで俺を見た。  うわっ………その顔。他のヤツらに見せんなよ、マジで。 「ご褒美……だよ」 「ご褒美?」 「入社して一カ月。……めちゃめちゃ、頑張ってたじゃないか」 「恵介……」 「だから、今日は……紘太にご褒美……あげようって。紘太の……好きなようにさせてやろうって。先にガンガン……イかされちゃったけど。だから……大人しくしとけって……」  上目使いのままにっこり笑った恵介は、顔にかかる髪をかきあげて。その形のいい口をいっぱいに開けると、俺のを奥まで咥える。 「……んっ……んんっ」  色っぽすぎな顔で、喉の奥まで咥える恵介を見てると。健気で、いい嫁で。自分の器の小ささにつくづくウンザリしてしまった。もっと、しっかり……恵介に頼られたいのに。  そんな感傷に浸っていたら、恵介の口で俺のが爆発しそうになる。……うっ! ヤバッ!! 「恵介!! 離せっ!! イクっ!!」  焦る俺に、恵介は上目使いで咥えたまま首を振るから……っ!! 俺はすごい勢いで、恵介の口の中に出してしまった。あまりにも慌てていて。急に引き抜いたから、残りが恵介のキレイな顔にかかった。  ……あちゃー。好きにしていい、って言われたけど……。好きにしすぎだろ、俺。 「ごめんっ!! 恵介っ!! 気持ち悪くないか?!」  びっくりした顔をしていた恵介は、恥ずかしそうに笑いながら「平気」と言った。 「紘太。一つ、ワガママ言っていいか?」 「何!? なんでもいって!」 「僕を抱っこして風呂場まで運んでよ」 「……え?」 「腰……立たなくなっちゃってさ。できれば、体もキレイに洗って欲しいんだケド」  そんなの、そんなの!! お安い御用だっ!!  世間一般でいう〝お姫様抱っこ〟で、俺は恵介の細い体を楽々と持ち上げる。鍛えていた甲斐があった……涙。 「すげぇな、紘太。こんな軽々抱っこできるなんて。やっぱり、僕、紘太が大好きだ」  俺の首に手を回して、体重の全てを俺に預けた恵介がすごく愛おしくて、たまらなく愛おしくて。その後もまた、二人して激しく、風呂場でイタしたのは、言うまでもない。 「なぁ、紘太……」 「何?……恵介……」 「おまえの、仕事が……波にのって……きたら、どっか……旅行、行こうか」 「……いい、ね」 「行きたい、とこ……ある?」 「恵介に……まかせる……」 シャワーに濡れて、その湯気で頰を赤らめた恵介は目を細めて笑って。俺の耳元で「了解」と囁いた。  旅行……恵介と、旅行……!! 胸が高鳴る、興奮が冷めやらない。あれだけ凹んでいたのに、やる気が漲って。またしばらく、仕事が頑張れそうだと思ったんだ。  総務課は出張がほとんどない。それは、分かる。しょうがない。じゃあ、なんで営業は出張があるんだ!! しかも、恵介が……あの、あの、大原と二人っきりで、福岡なんて!!  もう、朝からソワソワが止まらない。なんで俺より先に、大原なんかと旅行……基、出張に行くんだよ!! 多分、そのイライラとソワソワが内村にアリアリと伝わったに違いない。 「紘太。不安なのは、すげぇ分かるぞ?」 「そんなこと言ってくれるの、内村先輩だけです」 「大丈夫だ。福岡のホテルはだいだいいつも決まったホテルだ。絶対、シングルだから。それにオートロックだし。そんなに心配することないからさ」 「でも……恵介が開けちゃったら……」 「……そこまでは、何とも言えねぇな」 「……内村先輩」 「じゃ、今日飲みに行かね? 二人して恵介自慢でもしようぜ!!」 「い……いいんですか?」  内村がニッて笑って、俺はそれに、なんだかホッとして……。単純にも俺のイライラとソワソワは、少し小さくなったんだ。って言うか、気が紛れたに違いない。  に、しても。大原、が……危険すぎて、許せない。

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