5 / 37

第5話

 風が、火照った頬を冷やしてくれる。  足音が、夜空に響く。  一真は先程までの騒ぎを軽快に話し、笑う。  何事もなかったかのように。  そう。たかがゲーム。  光の混乱していた頭は、その一言に集約されていった。  たかがゲームなんだ。  キスくらい、取るに足らない座興なんだ。  光は、楽しげな一真に笑顔を向ける。  その笑顔に、自虐が混じる。 (僕にとっては、特別な一大事なのに)  そんな思いは、心から生まれて意識に届く前に揉み消した。  一真の靴音が、止まった。  気が付けば、そこはもう男子寮。二人歩きはここまでだ。  だが一真は、親指をひょいと立てた。

ともだちにシェアしよう!