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第4話

レストランを出てから、怒りに任せ、銀嶺は突っ切るように街を歩いた。 すでに辺りは暗くなっている。銀色の毛並みに街灯の明りを反射させて歩く銀嶺はやはり目立つようで、酔った男らに声をかけられ、品の無い言葉でからかわれた。 普段であれば恐ろしく感じて急いで逃げ出すところだが、そうはせずに銀嶺は男達を真っ向から睨み返した――ネコの意外な態度に怖気づいたのか、男らはそそくさと立ち去って行った。 その後姿を見ながら思った――彼らはバイオペットの私が、どんな想いで日々生きているのか理解しようなんていう気はまるでないのだ。人は――男は、みんなそうだ。大隅(おおすみ)も、今日の仕事相手の古河沢(こがさわ)も。そして――伊周(これちか)すらも。 私の事を本に書くだって?勝手にしろ。報酬をちらつかせれば言いなりになると思われたのが情けない。なぜ店まで付き合ったりなどしてしまったのだろう。最初から、行きたくないときっぱり断ればよかったのだ。 どうせ自分は彼らにとって、金儲けや肉欲の捌け口のための一材料に過ぎないんだ。まともに扱ってやる価値すら無くて―― 色々な考えが頭の中で渦巻いて止まらず、苛立ちと興奮がおさまらない状態のまま銀嶺はいつの間にか宿舎まで帰り着いていた。乱暴に自室の鍵をはずし、荒々しくドアを開ける。 「あれっ!?銀嶺さん!?一人で帰って来ちゃったの?」 部屋にいた相模が目を丸くした。 「連絡くれれば迎えに行ったのに……危ないよ、もう暗くなってるんだから」 銀嶺は大股で部屋を横切ると、腰を上げようとしていた相模の目の前に立ちはだかった。 「え?どうかした?」 不思議そうに自分を見上げた相模の顔を、銀嶺はいきなり両手で捉えて接吻した。勢いに任せて彼を畳へと押し倒す。 相模は抵抗しなかった。 自分が何をしているのか理解しないまま、銀嶺は奪うようにして相模の唇を思い切り吸い、服の上から身体をさぐった。発達した筋肉の感触が、逞しく硬く、掌に伝わってくる――それが直に欲しくなって、銀嶺は相模のシャツの(ボタン)に手をかけた。 肌蹴(はだけ)させた相模の胸板に、銀嶺は立て続けに口づけた。兵士の人工皮膚は自分のものとも、今まで銀嶺を抱いた男達のものとも違った。やがて唇で触れるだけでは物足りなくなり、銀嶺は上着とシャツを脱ぎ捨てて半身裸になると、相模に覆い被さった。自分の肌と相模の肌とを直接すり合わせ、皮膚の感触を思い切り味わう。 次第に呼吸が上がってきて下腹部に熱が集まる――久し振りの感覚。大隅と、最後に寝たのはいつだったろう?銀嶺は跨いでいた相模の身体の上からどくと、穿いていたデニムと下着を取り去って素裸になった。 「相模さん、少しの間でいいので――そのままにしていていただけますか――?」 銀嶺は隣に横たわる相模に再度口づけながら、自身へと右手を伸ばした。すっかり硬くなっていたそこを激しく扱き上げつつ、片脚を持ち上げて相模の脚に絡ませた。作業用ズボンごしだが、それでも――彼の引き締まった腿に備わっている力強い筋の存在をしっかり感じる――銀嶺は自身への刺激を続けながら脚を擦り合わせ――目を閉じ、やがて深いため息と共に張り詰めた精を開放した。 達してから――銀嶺は相模の首に片腕で縋りついたまま、暫く放心していた――やがて相模が、遠慮がちに声をかけてきた。 「銀嶺さん――ずっとそのままじゃ、身体冷えちまうよ――」 銀嶺ははっとして身を起こした。我に返った途端――羞恥に襲われて、脱ぎ捨てた服を慌ててかき集める。 「すっ……すみません、ごめんなさい」 情けなくなって涙がこみ上げてきた――相模には、今の自分の行為の意味はわからないのだ――これでは強姦も同然ではないか。自分だって、あの人たちと変わらない。自身を満足させるために相模の身体を利用した―― 「ごめんなさい――あなたにこんな事、するつもりでは――」 抱えていた服に顔を埋めた。すすり泣いている銀嶺を、相模は何も言わずあやすようにそっと抱いてくれた。 彼の腕と、その胸の温かさが――余計に悲しかった。

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