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第6話

それから4日ほどの間、音羽が例のトラックで銀嶺を迎えに来た。そうして5日目――その夜迎えに来たのは相模だった。 「相模さん!今日、仕事は?」 「うん、とりあえず終った」 肩を並べて歩き出す。 「あのう――」 「ん?」 自分といるのが嫌になったのでは――そう口に出しかけたが怖くなり、慌ててごまかした。 「いえ、その――歩いて帰るの久し振りだな、って」 「え、そうなの?」 「はい。音羽さんは――お店の車で迎えに来てくれたので」 「ああ、そうか……」 相模はどことなく落ち着かない風だった。 「食事、どうしましょう。昨日の残りでいいですか?」 部屋に着き、脱いだ上着を片付けながら銀嶺は尋ねた。相模は灯りの点いていない薄暗い隣の部屋でこちらに背を向け、俯いて突っ立ったままでいる。どうも――様子がおかしい。 「相模さん……」 銀嶺は彼の後ろに行っておずおずと声をかけた。 「相模さん、あのう、もしかして……私になにか言いたいことがあるのではないでしょうか……?」 「えっ!?」 それを聞くと、相模は飛び上がらんばかりにして驚き、振り返った。 「え、あの、どうしてそれ……」 やっぱり……銀嶺は沈んだ気持ちになりながら相模の顔を見上げた。 「わかってます……言い出しにくかったんでしょう?どうか遠慮しないで……はっきりおっしゃって下さい……」 「銀嶺さん……」 相模は戸惑った表情で呟いたが、一歩下がると、作業着のポケットから封筒を引っ張り出した。それを銀嶺の胸に押し付けるようにして渡す。 「あのっ、銀嶺さん!これ!」 「え?これ……?」 銀嶺が思わず封筒を受けとると、相模はいきなりその場に土下座してしまった。 「さ、相模さん!?あなた何を……」 「お願いします!それで、俺に銀嶺さんをかっ……買わせてください!」 「は!?」 あっけにとられて、銀嶺は相模に渡された封筒を見た。表面にゴム印で押したらしい文字で俸給、と書かれている。 「買う、って……私を?」 畳に額をつけたまま相模が言う。 「俺、今までネコ買ったことなんてないから相場わかんなくて!とりあえず、紹介された中で一番アガリが良かった仕事引き受けたんだ。で、それが全額なんだけど……や……やっぱそれだけじゃ足りない、かな……?」 銀嶺は思い当たった。そういえば……兵士達は戦場で得る報酬と引き換えに、ネコを抱きに行く資格が得られるのではなかったか。そしてそれには、かなりの戦績を上げねばならなかったはずだ。 銀嶺はその場に静かに腰を下ろすと、封を切って中をあらためた。かなり多く入っている――よほど懸命に働いたのだ。私を――手に入れるために。 相模は恐らく、ネコを買う、という言葉がどういう内容をさすのか、ちゃんと理解できてはいない――だがかつて――銀嶺を買った人間の男達が、同じ言葉を口にした時意味したものと、相模の言ったそれとは違う、そのことだけはハッキリわかった。これは――相模の精一杯の愛の告白なのだ―― 「相模さん」 相模は頭を上げた。銀嶺はその顔をじっと見つめた。 「私を――抱いてくださるとおっしゃるんですか?あなた自身の意志で」 神妙な面持ちでこくりと頷いた相模に向かって、銀嶺は微笑んだ。 「でしたらお金はいりません。私もあなたに抱かれたい。だって、もうずっと――そうして欲しかったんですから」 銀嶺はそっと、膝に置かれていた相模の手をとり、封筒を握らせた。 「これは――お返ししますね。嬉しかったですけど」 「金……ほんとに?いらないの?」 相模が不思議そうに聞く。 「ええ、いりません。それはあなたが使ってください。お金は頂かなくても、私は既にあなたのものです」 銀嶺は服の裾に手をかけた。 「どうか――抱いてください。あ、でも――何か薬がいるのでしたっけ――」 銀嶺は脱ぎかけていたのを止めた。 「今日は無理、かな」 照れ隠しに微笑んだ銀嶺の顔を相模はじっと見つめていたが、つと立ち上がると部屋の隅においてある箪笥の所に行き、自分の私物を入れてある引き出しを開けた。そこから白い紙袋を取り出す。 「これ――研究所の本郷さんがくれた――」 「え」 相模が差し出す袋を銀嶺は受け取った。ごく当たり前の病院の薬用の袋で、中には錠剤のシートが入っている。見た目は風邪薬や頭痛薬と変わらないが、ではこれが――? 「これ、いつ――?」 「もう、結構前……。班長が元気になって――会った時にちょっと教えてもらったんだ。俺らはその――薬がないと駄目なんだって。でも、貰ったはいいけど――銀嶺さんが……俺なんか相手にしたくないかもしれないと思ったから、言い出せなくて引き出しにしまってたんだ……でもこの間……」 相模は落ち着かなげな様子になって頭に片手をやった。 「あんた俺の前で……裸になってくれただろ?あれ見たらどうしても……なんていうかどうしても……ええと、よくわかんねえけど、とりあえず金ないと駄目だと思ったから、急いで働いて……でも、金はあんま関係なかったのな……」 知識が乏しい彼なりに、どうすればいいのか懸命に考えたのだろう。そう思うと、銀嶺は相模がいじらしくてたまらなくなった。 「相模さんありがとう……嬉しいです……とても……」 再び服に手をかけて、銀嶺はそれをすっぽりと脱いだ。 「あっ……!相模さ……駄目、です、そんな、強、く……されたら……アッ!」 暫く後――銀嶺は相模の下で身体を波打たせながらさかんに声を上げていた――奥深く突き入れられ、下から激しく揺すり上げられている。 はじめは――あんなにぎこちなかったのに。銀嶺は閉じていた目を薄っすらと開け、夢中で自分に穿ち込んできている相模の顔を見た。 ネコと寝るのが初めてだった相模は、最初は小さな子供のようにひどく戸惑っていた。銀嶺は愛おしい相模のその身体に跨り、毛並みを振り立て挑発するように隅々まで愛撫した――しかし相模の興奮が高まって来るにつれ、いつの間にか立場は逆転し、気付いたときには彼に自身を喉の奥まで呑みこむようにされて吸い上げられ――激しく啼かされていた。相手に奉仕するのが当たり前だった銀嶺にとっては初めての経験で、今は逆に銀嶺の方が戸惑っていた。こんな扱い――ものすごく、感じてしまう。 相模は銀嶺がよがって声を上げるのが珍しくて仕方が無いようで――銀嶺がどうなるのかを試すように、次々に身体のあちこちを指や舌を使って刺激した。はじめひどく興味を持っていた両の乳首を弄り尽くすと、やがて彼は、尾に隠れた部分――白くなだらかに盛り上がった、柔らかい臀部の奥――そこに特に、銀嶺を喘がせる箇所があると気付いて、尻肉を掴んで割り開き、舐めて湿らせた指を露わになった孔にずぷりと挿し入れてきた。銀嶺はたまらず髪を振り乱しながら、喉を反らせて啼いた。 「あ……ッ!ア――ああっ!」 相模は銀嶺の見せた激しい反応が気に入ったらしい――根元まで埋めた指を、奥でさらにぐいぐいと突き上げるように動かした。尻の肉を小刻みに揺すぶられ――銀嶺は背を仰け反らせて切なく声を上げ続けた。 やがて耐え切れなくなってしまい、銀嶺は切れ切れに懇願した――相模さん――あなたが欲しい。自身に手を伸ばされてその意味を理解した彼は、指を引き抜くとすっかりほぐされたそこへ――ぐいと深く、彼の持つ逞しい肉棒を穿ち入れてくれた。 「ウ……!すご……い、ああぁッ!こんなの、って……!」 太く、硬いそれに、身体を奥まで挿し貫かれる快感に翻弄され、銀嶺は思い切り歓喜の声を上げた。 後はもう――よく覚えていない。銀嶺は初めて――自分が相模を――雄々しい人造兵の、男性である部分を――しっかりと受け入れられるよう自らの身体が作られていた事に――深い喜びと満足を感じていた。

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