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第4話
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「……伊江」
自販機が設置してある休憩所でコーヒーを飲んでいると、通路から声を掛けた先輩が近付き、僕の隣に座った。
「お前、無理してねぇか……?」
「……」
ぴく、と缶を持つ指先が小さく痙攣する。
「……そんな事……」
「……」
「どうしてそう、思うんですか?」
視線を、コーヒーから先輩に移す。
「……いつもより、人を寄せ付けねぇオーラ出してるし。なんつーかな。辛くて苦しい気持ちを、必死で押し込めてるようにしか見えねぇんだよ」
「……」
……ああ、もう、本当に。この人の洞察力には敵わないな……
口の両端を持ち上げて見せるけれど、先輩には不要だと直ぐに悟る。
「……中途半端なまま、ここに来ちゃったから……だと思います」
「……」
僕の吐露に、先輩が前傾姿勢になって僕の顔を下から覗き込む。その真っ直ぐ向けられた視線から逃れるように、瞳を横に逸らす。
「カズ、……同居してる人が居るんですけど。その人と、何て言うか……」
「……」
こんな世の中になる前──人の役に立ちたいと思っていたカズは、卒業したら気象予報士になりたいと言っていた。
今は大学に行く傍ら、別の形で人の役に立つ仕事をしている。
……メンタルケア。
突然化け物が上空を飛んできて、街や人々を襲った。世の中はパニックになり……身体だけじゃない。残された人々の心にも傷も負った。
五年経った今でも、あの時の恐怖は消えない。突然襲われたり、大切な人を目の前で殺されたり。消えゆく命に、何もする術が無かったり。そんな、PTSDに陥って日常生活を上手く送れない人達の話を聞き、心の支えになるボランティア活動をしている。
別に、カズらしいし、反対するつもりはない。──けど……
「……関係が、拗れちゃってて……」
答えながら、涙が滲む。
……カズも僕も、元々はヘテロセクシャル。
カズが、男の僕より女性に心移りするなんて、至極当たり前の事だ。心の傷を負って苦しんでいる女性の心に寄り添い、支えていくうちに……自然とそうなる事ぐらい──
「ソイツと、上手くいってねぇのか?」
「──はい」
缶を持つ手に力が籠もる。
項垂れる僕の肩を、先輩が優しくポンと叩く。
「……まぁ、あれだ。
いい機会、だったのかもな。
近すぎて見えなくなっていた大切なモンが、お互い離れてみて初めて気付く……かも知れねぇだろ?」
「……」
先輩の言葉が,ストンと心の真ん中に落ちて、じんわりと沁み渡る。
重かった気持ちが、ほんの少しだけ……軽くなった様な気がする。
「……そうだと……いい、ですね」
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