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第6話
作業二日目──
化け物の解体に、結構な時間が掛かる。
新人達がまだ戦力外なのが、痛い。
防塵服の中は、既に汗だく。蒸し風呂状態で兎に角……熱い。流れる汗が、時折目に入って染みる。
ゴリゴリゴリ……
絶命して日の浅いものからは、得体の知れない液が噴出する。これに掛かると、臭いが中々取れないし、気持ち悪くて酷く萎える。
それでも、大きなノコを動かす。
電動ノコギリは、没収された。初日の昨日は、送風機も設置できたのに。それすら禁止。
腐敗臭と黴 臭さの入り混じる、この澱んだ空気の中に閉じ込められ、自家発電で得られる電気は全て照明に回り、地味にキツイ作業を永遠と熟す。
しかも今日から、昼食はこの中で摂るルールに変更された。
「……俺、もう無理だわ」
新人の一人がぼやけば、他の新人の手が止まる。
「マジで。俺も限界……」
「……帰りてぇ」
この仕事で、人間扱いをされない事はよくある。
……だけど、確かにこれは少々やり過ぎだと思う。
「何なんですか、俺らのこの待遇。……可笑しいですよ。俺ら以外は、快適な部屋でぬくぬくと仕事してんのに!」
新人の一人──香取が、堪りかねて呻き叫ぶ。
そうすれば、他の二人が続けて「そうだ!」とノコを放り投げる。
「……」
作業の手を止め、新人達を見遣る。
が、僕にはどうしたらいいか……解らない。
じっとりと、汗が背筋を伝う。
「………安全の為だ!」
不穏な空気の中、先輩が良く通る声でその場を制する。
「昨夜、特殊部隊の一人が、高熱で倒れた。
……ここに、最初に入った奴だ」
その言葉に、新人三人の動きが止まる。
「奴は入って直ぐ、不用心にもマスクを少しだけ外したらしい。……ここの空気がどんな事になってるか、興味が湧いたからだそうだ」
「……」
「解るか。ここの空気は汚染されていて、絶対に外へ漏らしてはいけない代物なんだ」
「……」
僕を含め、残りの三人が固唾を飲む。
ピラミッドの呪い──最初に入った発掘隊が死ぬという事から、そう呼ばれている。
しかしその実態は、汚染された空気を吸ったからと言われている。
「……じゃあ、俺達は……」
「マジ、かよ……」
「……」
「そうだ。……俺達のやってる仕事は、死と隣り合わせだ。
給料がいい割りにやりたがる奴が少ないのは、そういう訳だ」
ゴリゴリゴリゴリ……
言い終わると共に、先輩がノコを動かす。
不気味に響く音。乾燥してミイラと化したソレは、きっと硬いんだろう。
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