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第8話
気が付けば、横になっていた。
何処にいるのかさえ解らず、直ぐに頭が働かない。
僕の部屋……じゃない。
ここは、何処だ……
「……気が付いたか」
声がした方を見れば、部屋着姿の先輩が立っていた。手には水の張った手桶と、その縁に掛けたフェイスタオル。
「汗、かいただろ。……これで拭いてやろうと思ってな」
「……」
………あ……
少しずつ現実が帯びてくると、ここが何処なのか何となく理解してくる。
「悪ぃ。先に服、脱がしちまって」
「……」
そう言われて掛け布団をぺらっと捲ってみれば、確かに……素っ裸……
瞬間、かぁっと頬が熱くなる。
「言っておくが、やましい事はしてねぇぞ。……汗だくで、苦しそうだったから……脱がせただけだ」
「……」
フィッ、と顔を逸らせる先輩。何となくその耳元が赤くなっているように見えて……恥ずかしくて、無言のまま視線を外す。
「……身体、自分で拭くか?」
「………」
桶をテーブルに置き、先輩がタオルを固く絞る。バシャバシャ、という水の音が静寂を絡め取る。
無言のまま上体を起こせば、背を向けていた先輩が、温かいタオルを僕に手渡してくれる。
「……ありがとう、ございます」
現場から、ここまで担いできてくれたんだろう。
そう思うと申し訳ない気持ちになる。
「……昨日、ちゃんと寝たのか?」
「………」
「自己管理ぐれぇ、ちゃんとしろよ」
「………すみません」
何だろう……
叱られてるのに、嬉しい。
心が震える。
もっと、僕のダメな所を……言って欲しい。
………ちゃんと、直すから。
カズに、相応しい男になれるように……頑張って、直すから……
濡れタオルを四つ折りにし、俯いたまま顔を覆う。
「……じゃあ、俺は……伊江の食いっぱぐれた夕食でも貰いに行ってくるか」
独り言のように、明るくそう言いながら僕から離れていく。
「………待って、ください」
きっと、僕を気遣ってくれたんだろう。
……でも、今僕が欲しいのは、一人の時間じゃない……
「……もう少し、ここにいて下さい……」
「……」
「一人に、しないで」
何、言ってるんだ……
作業中に倒れて、ここまで運んで貰って。迷惑、掛けてるのに……
……その上まだ、先輩に甘え縋ろうとして……
「……伊江」
顔を上げ、ドアへと向かった先輩を見れば……僅かに目を見開いた先輩が、振り返る形で此方を見ていた。
「……」
ツカツカツカ──
踵を返し、大股で僕の方へと引き返してくると……
「伊江……」
「──っ、!」
僕の肩を掴み、その勢いのままベッドに押し倒した。
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