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第11話
「……感染だ。
特に発展途上国に死者が多かった事もあり、政府は、衛生環境の悪さを指摘していたが……そうじゃねぇ」
「……」
「何らかのウイルスが、人から人へと感染したんだ」
ザワッ
「医療が充実し、衛生環境の整った先進国では、……特に日本では、症状が軽かった事から『心の病』として片付けられた」
「………ふざっけんなよ」
香取が、低く呻く。
「国民を騙し続けたその謎のウイルスが終息に向かった矢先、だ。
とある国の地下組織で、あの巨大カマキリの化け物を研究しているチームがあった。何を研究していたかまでは、解らねぇ。……が、恐らく、巨大化させる何かを探っていたんだろう。
生体の一部をサンプルとして持ち帰り、半年が経ったある日──研究員の一人が、突然……死んだ」
「……」
「研究中のその細胞を、自分に植え付けたらしい。……奴は、同じ研究員の女性をレイプ目的で襲い掛かったが、『ソチン』と罵られ返り討ちに遭った事で、腹を立てたらしい」
「……ハ、何だよそれ」
確かに、何だ……、だ。
初めて香取の言葉に同意する。
「問題は、その後だ。
自分に取り込んだその日の午後、その国の大統領が別国の視察団に混じって、研究所を訪れた。当然、その研究員とも接触している」
「……」
「その後、大統領と数名の視察団が高熱で倒れ、そのまま隔離された。
政府がひた隠しにしていたウイルスの特効薬で治療を受けたが、全く効かなかったそうだ」
「……」
「ここを掘り返す計画が立ったのは、その直ぐ後──つまり、ここに、政府が隠している何か……特効薬に繋がる何かが、埋まっている事になる」
──まさか、それがナツネくん……?
咄嗟に脳裏に映ったのは、笑顔のナツネくん……真剣な顔をしたナツネくん……
……食われる、ナツネくん……
ナツネくん……ナツネくん……
「………おい、大丈夫か……?」
充満した湯気のせいか。
酸欠になったようにクラッとなり、頭がジリジリと痺れる。
力が抜け落ち、ふらふらと頼りない身体が、先輩の背中に寄り掛かる。
「……すみ、ません……」
「話は以上だ」
僕の肩を支え、先輩が外へと誘導してくれる。
視線の集まる中、情けない位にまともに歩けなくて……
朦朧とする意識の中、頼りになる先輩に、僕はずっと甘えっぱなしだった。
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