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第一章・6

 パッサカリアはフードの付いたコートを羽織り、狭いライブハウスの中で人に揉まれていた。  突然、ぱあん! と派手な破裂音が響き、もうもうとしたスモークをかきわけ大柄な男の影が近づいてきた。  まぶしいライトや、虹色の光の中に、白々と光る人間の頭蓋骨が次々に浮かび上がる。  耳をつんざくような爆音が鳴り止むと、今夜の主役・ジンガラが姿を現した。 「な、なんて汚、いや、ワイルドな男だろう!」  浅黒い肌に、彫りの深い顔立ち。ぎょろりと開いた眼には、挑戦的な光が宿っている。  癖のある黒髪を逆立て、顎にはうっすらと硬そうな無精髭が生えている。  袖を破り捨てた皮ジャンを素肌に引っかけ、ブーツは底が抜けている。  こいつらは、地獄に足を踏み入れた者たちの屍だぁ~!  ……俺様のコレクション、すばらしいだろう!  おぉおおお! と割れるような歓声。  客は皆大声を上げ、腕を振りまわしすっかり興奮している。    音楽といえば、静かに椅子に腰掛け飲み物を傾けながら優雅に聴くものとばかり考えていたパッサカリアにとって、これは天地がひっくり返るほどの衝撃だった。  おどおどしている間にも、曲は始まっている。  俺様の~名を、言ってみろ~ッ!   ステージ上のジンガラが、マイクを観客席に向けると同時に。  ジンガラ・さ~ま~ッ!  客は一斉にジンガラの名を叫んだ。  ビートに乗せて足を踏み鳴らし、手を打ち鳴らし、興奮のあまり失神する者までいる。  ライブハウスは、異常空間となっていた。

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