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第一章・8

「ジンガラ様~!」 「握手して~!」  すべてが終わると、興奮冷めやらぬ観客がステージに這い上がり、ジンガラを揉みくちゃにしている。  パッサカリアも後ろの方から背伸びをして、なんとか握手ができないものかと伺ってみた。  ふと、眼が合った感覚。  その途端、背後からフードが引かれ、パッサカリアの顔がすっかりさらされてしまった。  一瞬、時が止まったかのように感じた。  透き通るような肌に、柔らかな巻き毛。宝石のように輝く瞳に、その下にあるひとつの小さな泣きぼくろまで愛らしい。 (イケてる!)  そう思った瞬間、ジンガラはその美しい人を抱き寄せていた。  心と同時に、体が動いていた。こんな事は初めてだ。  小さな小さな国。  外国周りの手始めにと訪れたこの田舎に、こんな上玉が隠れていたなんて!  ジンガラは、そう感じた瞬間、ぐいと太い腕を伸ばし、パッサカリアの胸倉をつかんで引き寄せた。 「カワイコちゃん、見~っけ♪」 「え?」  唇に押し付けられる、柔らかい肉の感触。  ざらり、と硬い髭が頬に触れる。  口づけされた、とパッサカリアが気づいたのは、ジンガラの顔が離れてしまった後だった。 「きゃ~! 私にもキスしてぇ~ッ♪」 「おいおい、ちょっとやばいんじゃないの?」  そんな声を遠くに聞きながら、パッサカリアはその場に倒れ、意識を失ってしまった。  キスしたとたん、気を失ってしまった可愛い人。  ジンガラはパッサカリアを楽屋へ連れ込み、ソファに寝かせた。  意識のないまま犯すなんて、もったいない。  酒を傾けながら思い出したのは、老婆のあの言葉。 『生涯の伴侶が、見つかるだろうよ』  柄にもなく、胸が高鳴った。  酒を飲み、煙草を吸いながら、ただこの美しい人の目覚めを待った。

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