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第一章・10

 唇をようやく離したジンガラが、パッサカリアの顔をまじまじと眺めてきた。  相変わらず、手はその肌を撫で続けてはいるが。 「お前さん、もしかして男なの?」  パッサカリアは、大きく何度もうなずいた。  男だったら、解放してくれるに違いない。通常、男は女を愛するものだから! 「ま、いいや」 「何だって!?」 「俺様、好き嫌いないから」 「いやあぁあ!」 「男とするの、初めて? こんな可愛い顔してるのに?」 「助けて! 誰か! 誰かいないか!?」 「誰もいないよ~ん」  分厚い舌で頬をべろりと舐めあげられ、パッサカリアは宮殿を抜け出してきたことを後悔した。  近衛兵がいない。父上も、兄上もいない。誰も助けに来てくれない。 「だ~いじょうぶ。優しくするから。ね?」 「やだ。ぃやだ……」  開いた唇の隙を狙って、ジンガラの舌が咥内へねじ込まれてきた。  厚ぼったい、柔らかい肉が、パッサカリアの口の中を蹂躙してゆく。 「痛ッ!」  ジンガラの顔が、瞬時に離れていった。  思いきり、舌を噛んでやったのだ。  涙をにじませながらも、パッサカリアは、精一杯の威厳を持ってジンガラを睨みつけた。 「これ以上無礼を働けば、舌を噛んで死ぬ!」 「おいおい、ちょっと……」  何て融通の利かないヤツだ。  しかもさっきから『無礼者』とか『誰かいないか』とか、何様のつもり?  もしかして。 「もしかしてあんた、ちょっとコレ?」  ジンガラは指を立てて、自分のこめかみあたりでくるくる回してみせた。  ちょいと頭のネジが緩んでるのか? この子は。 「失敬な!」 「ほら、その言葉遣い~」  身分を明かしてしまおうか、と思った。  しかし、勝手に城を抜け出していかがわしい溜まり場に入り込み、挙句に犯されそうになりました、という事が知れれば、王室に傷がつく。

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