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第一章・15

 朝、そのまま楽屋に泊ってしまったジンガラは、ソファでぼんやり煙草をふかしていた。  身じろぎするたび、ぎしりと音の鳴る硬いソファ。  昨夜この上で俺は、至高のひとときを味わったのだ。  天国にイかせてやる、と思っていたこの自分の方が、極楽に達してしまおうとは。 「あ~、最高だった~♪」  まだ手に腕に、この体中にあの心地よい感触が残っている。  まるでオーダーメイドされたかのようにぴったりフィットした感覚。    体もそうだが、心まで一つに溶け合う感触、というものを初めて味わった。  探していた自分の半身が、ぴたりと合わさったかのような快感。 「あ、何か出来そう」  名残惜しかったがソファから離れ、窓際に立てかけておいた古いギターを手に取った。  ぽろん、とかき鳴らして浮かんでくるのは、昨日の可愛い人の姿。  美しいその顔が、どんどん蕩けていく様。  硬くこわばっていた体が、どんどん乱れていく様。  これまで創ったことのないような、甘くて、それでいて激しい旋律が爪弾かれていく。  気がつくと、小さな声で口ずさんでいる。 「あれあれ。俺様、一体どうしちゃったんでしょうねぇ~」  一夜限りの恋など、これまで何度も経験してきた。  それはいつでも朝日とともに消えてゆくものだったのに。    ぱん、と両手で頬を叩いた。  俺様らしくないことなど、ダメだ。  まだまだ、この国でのライブスケジュールは残っている。特定の人間に執着などしていては、いいパフォーマンスはできない。  だが、それ以来ジンガラは客席に特定の人間を探すようになっていた。  あのカワイコちゃんがまた来てくれないかと、探すようになっていた。

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