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第一章・17

 私も、早く忘れなければ。  気を紛らわそうと、父にこちらから声をかけた。 「父上、そういえばブラヴラ王国のフォルツァ王は何と申してきましたか?」  強大な軍事国家、ブラヴラ。  そこに君臨する王・フォルツァから何か打診があったことは、国王をはじめ王子全員の耳に入っていた。 「うむ……。パッサカリア、食事が終わったら私の部屋へきなさい」 「はい」  今度は父上の様子がおかしい。  ここではなく、わざわざ別の部屋へ。それも玉間ではなく自室へ、とは。  きょとんとした顔で兄たちの表情を伺うと、こちらもおかしい。  眼を合わせないように逸らし、まるでパッサカリアと話すことを避けているようだ。  私だけが知らない秘密が、あるのかもしれない。  そう思ったパッサカリアの直感は、その後的中することとなった。 「私がブラヴラへ!?」 「フォルツァ王の側近に、という話が来ておる」  側近だなんて。  体裁のいいことを言いながら、その実フォルツァの男妾に、という意味であるに等しい。  美しいパッサカリアに、フォルツァは以前からご執心だったのだ。  事あるごとに言い寄っては、袖にされることが常だった。 「今度は、互いの国の平和のため、と言ってきてな」  パッサカリアが女性であったら、王子ではなく姫であれば、政略結婚というところだ。  言うことを聞かなければ、お前の国に攻め込むぞ、と暗に脅しているに他ならない。  この小さな国では、あっという間に攻め落とされることは眼に見えている。

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