17 / 104
第一章・17
私も、早く忘れなければ。
気を紛らわそうと、父にこちらから声をかけた。
「父上、そういえばブラヴラ王国のフォルツァ王は何と申してきましたか?」
強大な軍事国家、ブラヴラ。
そこに君臨する王・フォルツァから何か打診があったことは、国王をはじめ王子全員の耳に入っていた。
「うむ……。パッサカリア、食事が終わったら私の部屋へきなさい」
「はい」
今度は父上の様子がおかしい。
ここではなく、わざわざ別の部屋へ。それも玉間ではなく自室へ、とは。
きょとんとした顔で兄たちの表情を伺うと、こちらもおかしい。
眼を合わせないように逸らし、まるでパッサカリアと話すことを避けているようだ。
私だけが知らない秘密が、あるのかもしれない。
そう思ったパッサカリアの直感は、その後的中することとなった。
「私がブラヴラへ!?」
「フォルツァ王の側近に、という話が来ておる」
側近だなんて。
体裁のいいことを言いながら、その実フォルツァの男妾に、という意味であるに等しい。
美しいパッサカリアに、フォルツァは以前からご執心だったのだ。
事あるごとに言い寄っては、袖にされることが常だった。
「今度は、互いの国の平和のため、と言ってきてな」
パッサカリアが女性であったら、王子ではなく姫であれば、政略結婚というところだ。
言うことを聞かなければ、お前の国に攻め込むぞ、と暗に脅しているに他ならない。
この小さな国では、あっという間に攻め落とされることは眼に見えている。
ともだちにシェアしよう!