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第一章・19

「号外、号外! パッサカリア王子が、ブラヴラ王国へ行きなさる事が決まったよ!」  我も我もと、号外に群がる人々。  紙面を読んだ人間は誰もが、悲しそうな残念そうな顔をしている。  それに、ジンガラは興味をひかれた。  国民すべてに愛されている、パッサカリア王子とやらは一体どんな奴なのか。  手にした号外には、思いもよらない顔写真が載っていた。 「あッ、あのカワイコちゃん、王子様だったんかよ!?」  よくぞまあ、これまで無事でいられたもんだと今更ながら冷や汗が流れた。  王様にでもチクられれば、一大事。とっ捕まって百叩きぐらいでは済まないだろう。  今でもこうして自由に歩き回っていられるのは、この可愛い王子様が、だんまりを決め込んでくれたからに違いない。  号外の写真は、にっこり微笑んでいた。  見たことのない笑顔。  こんなに素敵に笑える人だったのか。    あの夜は、ただ泣かせてしまった。  こんな笑顔は、見せてくれなかった。 「誰に向かって笑ってるんですかぁ? パッサカリアちゃん」  笑ってほしい。俺だけに、微笑んでほしい。  号外は、大切に楽譜を入れるファイルに収めた。  あの時、一夜を共にした翌朝に創った歌の楽譜とともに、大切に持っておくことにした。  「そろそろ他所に流れようかと思ってたが、行き先は決まったな」  パッサカリアについてブラヴラ王国へ行ってみよう、とジンガラはこの奇妙な縁に乗ってみることにした。

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