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第一章・25
「パッサカリア!?」
パッサカリアの突然の大声に、フォルツァは仰天した。
何やら怪しい雰囲気に呑まれているこの場所から、一刻も早く出たい。
幸いパッサカリアはすでにニコニコ笑っているので、目的は果たしたと言えよう。
後ほどこの男に、褒美を渡せばそれでOK!
「帰るぞ、パッサカリア!」
「嫌です、離してください!」
踏ん張るパッサカリアと押したり引いたりしていると、周囲がどんどん迫ってくる。
ステージ上の音楽が、どんどん迫ってくる。
この音楽は、いや、この音は、いや、この声は。
この私を攻撃している!
なんだ、この波動は。
脳をかき回し、気持ちを逆立て、心を蝕んでくるこの声は……。
まさか、魔術!?
ジンガラの歌声に乗って、形のない魔術がばらまかれる。
そして彼の魔術を受け取った聴衆の熱狂は、どんどんヒートアップしてゆくのだ。
「馬鹿な。この類の魔術を持てば民衆を扇動し、一国を動かす権力を手にする事ができるのに!」
だのに、ただのシンガーに甘んじているジンガラの心が、フォルツァには理解不能だった。
その一方で、明らかにフォルツァを攻撃してくる魔術が忌々しい。
まるで、石つぶてのような魔術の塊。
それがいくつもいくつもフォルツァの精神に投げ込まれて、波紋を作る。
ぎらりと光る油膜のような虹色の波紋は、フォルツァの脳を、体を、心を侵食し汚染する。
「気分がすぐれん。出るぞ!」
だが、ライブハウスの中は一歩も踏み出すことのできない、おしくらまんじゅう状態だ。
結局フォルツァは、ステージを最後まで観る羽目になった。
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