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第一章・27

「もう眼を開けてもいいよん。カワイコちゃん」 「ここは……?」  先程までいたライブハウスとはまた違った暗さが、辺りを覆っていた。  暗いというより、闇。  その闇の中、点々と青白い鬼火が灯り周囲の荒涼とした岩肌を照らしている。  はるか向こうには、一列に並んで静かに歩く骸骨の群れ。 「俺様の結界魔方陣の中だ。俺と、俺が許した人間しか入れないから、安心しな」 「やっぱり、魔術が使えるんだね」  気づいてたのか、とジンガラはわずかに眉を上げた。 「まぁ、たいした力じゃないけど、役には立ってる」  ううん、とパッサカリアは首を横に振った。 「人の精神に影響を与える魔術。使い方によっては、とても危険でしょう。それを、あなたは歌声に乗せて、人々に喜びを与えています」  おだてても、何も出ないよ。  ジンガラは、パッサカリアの鼻を、くいとつまんだ。 「そういえば、フォルツァは?」 「置いてきた。だって、お前さんを笑わせたら褒賞くれるんだろ? ご褒美に、カワイコちゃんもらっちゃった♪」 「ご褒美に、って……無礼者! 私は品物ではない!」  そうそう、そうこなくっちゃ、とジンガラは笑いながらパッサカリアの顔に手を伸ばした。 「今から、キスをします」 「なッ!?」 「俺様についてくるなら、受け入れてちょうだい。イヤなら、あの時みたいに噛んでいいから」  そしたら、フォルツァの元へ帰す、とジンガラは少しだけ真面目な顔になった。  そっと、顔が近づいてくる。  一度見たら忘れられない、彫の深い顔が近づいてくる。 「ん……」  唇を合わせ、眼を閉じた。  指し伸ばされてくる、ジンガラの舌。  私は、愛してしまっているのだろうか。この男を。  解からない。  でも、フォルツァのところへ帰るのはイヤだ。  咥内に、ジンガラを許した。  ゆるやかに舐めてくる舌に、自分の舌を絡ませた。  フォルツァに刷り込まれたように。調教されたように。 「ん、そこまで」  ぱ、とジンガラが顔を離した。 「下手な癖、いらないから。他の男の手垢、感じるのヤだから」  これからは俺様の色に染まってね、という言葉に頬を染めた。  これで私は、ジンガラのものになったのだ。  しかし、ついてくるって一体どこへ?

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