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第一章・32

 ゆっくりと瞼を開いた。  眼の前には……、無精髭の笑顔。 「お目覚め? 昨夜は素敵だったよん♪」  あ、と、パッサカリアは状況をようやく把握した。  そう。私はジンガラに付いてきたのだ。  もう、暴君フォルツァにいたぶられる生活はおしまい。  これからは、この……多分愛している……ジンガラと共に暮らすのだ。 「モーニング・キス。ん~♪」  ちゅ、と唇だけ合わせた。 「それはそうと」 「ん? 何、もう一回ヤりたい?」 「違う!」  気持ちが悪いので湯あみをしたい、とパッサカリアは頬を膨らませた。  汗と精液でべたべたなのだ。よくもまあ、こんな状態で眠れたものだ。 「バスルームは、こちら」  ジンガラに連れられて、浴室へ入った。  非常に狭く感じたが、それは今まで暮らしていた宮殿の浴室が広かっただけのことなのだろう。  不平を言わずに、パッサカリアは差し出されたプラスチック製のバスチェアに座った。 「どこへ行く」 「え?」  彼ひとり置いて出て行こうとするジンガラを呼び止め、パッサカリアは腕を差し出した。 「ん」 「ん、って。え? 何?」  何って、とこちらの方が不思議そうな顔をしてパッサカリアはジンガラに訴えた。 「何をしている。早く私の体を洗うのだ」  なんと。 「……そういえば、王子様だったっけ」  パッサカリアは、自分で体を洗った事など無いに違いない。  かわいい侍女かなんかに、手取り足取り泡だらけにしてもらっていたのだろう。  

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