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第一章・35

 優しいまなざしの、髭面。  パッサカリアは、そっとその唇に口づけた。 (あ、初めて自分からキスしてくれた)  ジンガラは、そんな些細な事を嬉しく感じていた。  日常の些細なことが、素晴らしい喜びとなる予感を、ジンガラは覚えていた。  にっこりと、微笑むパッサカリア。  あぁ、あの号外の写真と同じ。いや、それよりもっと素敵な笑顔がここにある。    笑ってくれた。俺だけに、笑ってくれた。 「愛してるぜ、パッサカリア」  歌の中でだけしか言わないような言葉を、ジンガラは生まれて初めて口にした。

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