51 / 104

第二章・16

「パッサカリアちゃんはコレ? それともアレ!?」  ジンガラがショーケース前で、必死であれやこれや指さしてウロチョロし始めたのだ。  その後ろで パッサカリアは軽く眼を閉じ首を振っている。 「何で何で!? 絶対お似合いだってば!」 「食べるものに似合うも似合わないもない。私は自分で決めたいんだ」  青年は営業用の真顔のまま、ぶふッ、と吹き出していた。  この強面の男が、こんな華奢な恋人の尻に敷かれてるなんて!  しかし、この美しい人に逆らえる人間なんていやしないだろう。  恐ろしいはずの男に親近感を覚えながら、青年はスプーンに試食用のアイスをすくってパッサカリアに手渡した。 「よろしかったらどうぞ。他の商品も、お気軽にご試食を御申しつけください」 「ありがとう。気が利くね」  期間限定の新商品、レモンマスカルポーネチーズケーキを舐めたパッサカリアは嬉しそうだ。  青年は、ジンガラにも試食品を渡した。前回の時より、ずっとくだけた気持ちで接することができた。  人は、見かけによらないのだ。

ともだちにシェアしよう!