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第三章・8

 ユニ〇ロのTシャツにジーンズ、頭には読〇ジャイアンツの野球帽。  そして、メガネ〇ーパーのラウンドサングラスに、ダ〇ソーのサージカルマスク。 「完璧だ!」  これで誰も、まさか私がブラヴラ王国のフォルツァであるとは気づくまい。  フォルツァは、サングラスとマスクでほとんど見えないその顔でにやりと笑った。  国王専用機でアポジャトゥーラの飛行場へ降り立つのは、さすがにまずい。  フォルツァは生まれて初めて民間のジェット機、しかもビジネスクラスに座った。 「うぬぅ! まるで奴隷のようなこの扱い。おのれ、アポジャトゥーラ!」 「陛下。このジェット機は、我が国の航空会社のものでございます」 「解かっておる!」  従えるのは、侍従ただひとり。  それでも最初は、ひとりお忍びで乗り込むと言って聞かなかったフォルツァを説得することに、丸一日かかった。  秘密で黒服の諜報員を変装させて周囲に紛れ込ませ、侍従はタクシーにすら独りで乗った事のないフォルツァを連れてパッサカリアの居る、ジンガラの住むマンションへと向かった。 「ここが奴の巣か。思ったより大きいな」 「いいえ、陛下。この建物は全てがジンガラ所有のものではなく、その一室だけを買い取っておるのでございます」 「何と」  すると、この小さな小さな窓ひとつのどれかに、愛しいパッサカリアが閉じ込められていると!? 「ぐぬぬ、甲斐性無しの貧乏人め! どうしてくれようか!」  部屋に殴りこむわけにはいかない。  騒ぎになると、最悪国同士のケンカになるのだ。  さすがのフォルツァも、アポジャトゥーラを敵に回すとまずい、くらいの意識は働いたので、そっと茂みに隠れ双眼鏡で様子を伺っていた。

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