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第三章・9
窓に、ちらりとでもパッサカリアの姿が見えないかと辛抱強く待っていたフォルツァだったが、3分と持たなかった。
「ここで手をこまねいてどうする! 何とかせんか!」
「かしこまりました」
侍従は、密かに練っていた作戦を実行に移した。
無線で諜報員に連絡を取ると、すぐに郵便配達員の扮装をした男がジンガラのマンションへと入っていった。
「あん? 俺様に郵便?」
今どき封書で連絡もあるまいに、とジンガラは怪訝に感じた。
取引のある人間や会社とはいつもメールでやり取りしているし、しかも玄関ロビーのポストではなく、わざわざ個人の部屋まで昇って手渡してくるなんて。
びりびりと封筒を破り中を取り出してみると、チケットが2枚入っていた。
招待券だ。
「ねぇ、パッサカリアちゃん。遊園地、行ってみる?」
「遊園地?」
何でも無作為に選出した人間に、遊園地の無料招待券が配られているらしい、とジンガラはパッサカリアにチケットをひらひら振ってみせた。
「すごいよ。入場料だけじゃあなくって、中のアトラクションもぜ~んぶタダなんだって! あれ。でも 期限は本日のみ、か。やけに急な話だな」
「よく解からないが、楽しいのかな」
「う~ん、遊園地ねぇ。実は俺様も、ロクに行った覚えがないんだよね」
子ども時代から親などいなかった。
家族で遊園地、などという甘酸っぱい思い出は無い。
少年時代はすでにチンピラ同然だったので、これまた友人や彼女と遊園地、なんて縁も持たなかった。
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