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第三章・12

「パッサカリア。遊園地といえば、まずメリーゴーラウンドに乗ろうよ♪」  きらきらとにぎやかに飾り立てられた馬や馬車。  軽やかな音楽とともに回るそれに乗るのは気恥ずかしいが、ジンガラはそこをあえて選んだ。 「へっへへ。恥~ずかし~い。ガキみてえ」 「君の頭の中は、子どものままじゃあないか」 「かもね~♪」  愛しいパッサカリアと、無垢な子どもの気持ちとやらを味わってみたかった。  本当の子ども時代には、決して得られなかったものへの憧憬。  二人は共に金色の馬車に乗り込み、微笑みあった。  一方、フォルツァは。 「この馬は、我が愛馬サクラショウリ号に似ているな」  二人の乗った馬車の、3台後ろの白馬に跨った。 「俊足のサクラショウリ号で、そのような馬車になどすぐに追い付いてみせるわ!」    そして脇から、麗しいパッサカリアを奪い去るのだ。  くっくっく、と小さく喉で笑うフォルツァの姿が、進行方向と逆向きの席に座ったジンガラの視界にちらりと入った。  ずいぶん妙な奴がいる。  男一人で、メリーゴーラウンド。  しかも、あのへんてこりんな格好。 (ま、野郎一人でこんな遊具に乗るにゃあ、変装も必要だぁな)  ジンガラは、あまり深く考えることなく、ゆっくりと動き出したメリーゴーラウンドに、身をゆだねた。

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