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第四章・5
ブラヴラ王国の王・フォルツァは、執務を抜け出し城内のバラ園へ潜んでいた。
以前なら、バラ園へ来ることなど春と秋の年2回、花の時期しかなかったのに。
年に2度しか楽しめないのならば、土地の無駄だと潰して噴水でもこしらえるかと思っていたバラ園。
ひととき彼のもとにいたパッサカリアが、それを止めさせた。
ろくな予算も下ろしていなかった痩せたバラ園だったが、それがパッサカリアが通うようになってから、みるみる生気を取り戻した。
『パッサカリア様は、植物に命を吹き込む魔術をお持ちです』
バラ園の管理責任者が、そう言っていた。
フォルツァが執務で傍にいない間は、ほとんどこのバラ園でパッサカリアは過ごしたという。
自ら耕し、肥料を、水を与え、そして語りかけてはバラを励ましていたという。
バラに人語が解かるのか、とフォルツァは笑ったが、庭師は真面目にうなずいていた。
『パッサカリア様がおっしゃっておられました。植物といえども、人と同じと。喜び悲しみ、怒り笑うのだと』
パッサカリアを失ったバラたち。
やつらも悲しんでいるのだろうか。このフォルツァと同様に。
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