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第四章・6
あぁ、とフォルツァは大げさにひとり天を仰いだ。
美しく愛らしいパッサカリア。
憎きジンガラにかどわかされ、我が国と敵対関係にあるアポジャトゥーラへとその身を隠してしまった。
いまやパッサカリアを偲ぶことができるのは、彼の残した魔術がかすかに感じられるこのバラ園のみ。
「いや、いつか必ずこの手に取り戻して見せよう。そしてまた、二人でこのバラ園を歩くのだ」
気を取り直し、フォルツァは厨房からくすねてきたおやつを取り出した。
「陛下! このようなところに!」
見つかったか。
侍従が怖い顔をしてこちらへ向かってくる。
フォルツァは農林水産大臣との協議中、退屈になって抜け出したのだ。
休憩時間を過ぎても戻らない国王を探して、侍従はやってきた。
「怒るな。これを食べたら戻る」
「陛下、事態は一刻を争うのですぞ」
「そう急くな。それよりパッサカリア奪還の方が、余にとっては重大だ。何か策はないのか」
「バラ園で、パッサカリア様のことをお考えだったのですな? 申し訳ございませんが、しばらくは御辛抱いただきますぞ」
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